ライフ

スウェーデンで普及、歯の「レジン治療」が日本で普及せぬ理由

銀歯を外した後とレジンで修復後(写真/アフロ)

 歯医者に何度通っても、虫歯は治るどころか再発し、挙げ句の果てには、「歯を全部抜いてしまいましょう」──密室の診療室で歯医者の言うことばかり聞いていたら、一生悔やむ事態になりかねない。特に銀歯治療を繰り返すことで、歯はどんどん削られ、神経に感染が起きやすくなるという。とはいえ、多くの日本人が銀歯治療を受けている──。

 100人以上の歯医者、歯科衛生士、歯科技工士に取材を重ね、今年6月に上梓した『やってはいけない歯科治療』(小学館新書)も話題となっている、ジャーナリストの岩澤倫彦氏が緊急レポートする。

 * * *
 銀歯しか治療の選択肢がないなら諦めもつく。しかし、1980年代には虫歯部分だけを削る「コンポジット・レジン修復」という治療法が、すでに確立されていた。

 プラスチック系素材の「レジン」は、歯の色に近い乳白色のペーストで、虫歯を削った部分に充填した後、LEDなどの光を当てて硬くする。

 小さな隙間にも入り込んで、ぴったりと付くので、虫歯部分が小さくても、健康な部分の歯は削らなくていい。虫歯が再発した際に、銀歯を外してレジン修復したものを見ても、自然な仕上がりで、ほとんど天然歯と見分けがつかない。

 しかし、現在でも「銀歯」信奉者の歯医者は少なくない。そうした歯医者たちは「レジンは、欠ける、割れやすい、耐久性がない。銀歯の方が丈夫で長持ちする」と主張する。歯の保存学を専門にする、長崎大・久保至誠准教授はこう指摘する。

「レジンの強度は天然歯と同じか、少し弱いくらいなので、噛み合わせの時にレジンの方がすり減る。それによって、天然歯が守られます。堅牢な銀歯は、逆に天然歯を傷めてしまうこともあります。また、銀歯のように大きく削らなくて済むから、2~3回の再治療があっても、抜髄することがない。それもレジンの利点です」

 10年間の歯の生存率(口腔内に残っている率)を調査した研究で、銀歯とレジンのどちらが長持ちするかを見ても、ほとんど差がない。

 ではなぜ、レジンの普及は進まなかったのか?

 理由の1つとして考えられるのが、歯医者が得る保険の診療報酬だ。銀歯よりレジンの方が圧倒的に安い。治療の一例では、銀歯=5680円に対してレジン=1540円。銀歯の方がレジンより、3.6倍も売り上げが大きいことになる。

 そして、もう1つ考えられるのが、治療時間=手間。

「銀歯なら、歯科医は歯型を取って模型を歯科技工士に渡せば、後の複雑な工程はすべてやってもらえます。レジン治療は、歯科医が約30分間つきっきりで作業しなければなりません。丁寧にやるほど採算が合わない赤字治療なのです」(東京医科歯科大学の田上順次副学長)

 歯科先進国スウェーデンではレジンが虫歯治療の基本だ。日本でレジンの普及が遅れたのは、歯医者の思い込みと、金儲け優先の姿勢にあると言っても過言ではない。

※女性セブン2018年8月23・30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン
多くの外国人観光客などが渋谷のハロウィンを楽しんだ
《渋谷ハロウィン2025》「大麻の匂いがして……」土砂降り&厳戒態勢で“地下”や“クラブ”がホットスポット化、大通りは“ボヤ騒ぎ”で一時騒然
NEWSポストセブン
声優高槻かなこ。舞台や歌唱、配信など多岐にわたる活躍を見せる
【独占告白】声優・高槻かなこが語る「インド人との国際結婚」の真相 SNS上での「デマ情報拡散」や見知らぬ“足跡”に恐怖
NEWSポストセブン
人気キャラが出現するなど盛り上がりを見せたが、消防車が出動の場面も
渋谷のクラブで「いつでも女の子に(クスリ)混ぜますよ」と…警察の本気警備に“センター街離れ”で路上からクラブへ《渋谷ハロウィン2025ルポ》
NEWSポストセブン
クマによる被害
「走って逃げたら追い越され、正面から顔を…」「頭の肉が裂け頭蓋骨が見えた」北秋田市でクマに襲われた男性(68)が明かした被害の一部始終《考え方を変えないと被害は増える》
NEWSポストセブン
園遊会に出席された愛子さまと佳子さま(時事通信フォト/JMPA)
「ルール違反では?」と危惧する声も…愛子さまと佳子さまの“赤色セットアップ”が物議、皇室ジャーナリストが語る“お召し物の色ルール”実情
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
「日本ではあまりパートナーは目立たない方がいい」高市早苗総理の夫婦の在り方、夫・山本拓氏は“ステルス旦那”発言 「帰ってきたら掃除をして入浴介助」総理が担う介護の壮絶な状況 
女性セブン
9月に開催した“全英バスツアー”の舞台裏を公開(インスタグラムより)
「車内で謎の上下運動」「大きく舌を出してストローを」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサーが公開した映像に意味深シーン
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
《コォーってすごい声を出して頭をかじってくる》住宅地に出没するツキノワグマの恐怖「顔面を集中的に狙う」「1日6人を無差別に襲撃」熊の“おとなしくて怖がり”説はすでに崩壊
NEWSポストセブン
「原点回帰」しつつある中川安奈・フリーアナ(本人のInstagramより)
《腰を突き出すトレーニング動画も…》中川安奈アナ、原点回帰の“けしからんインスタ投稿”で復活気配、NHK退社後の活躍のカギを握る“ラテン系のオープンなノリ”
NEWSポストセブン
真美子さんが完走した「母としてのシーズン」
《真美子さんの献身》「愛車で大谷翔平を送迎」奥様会でもお酒を断り…愛娘の子育てと夫のサポートを完遂した「母としての配慮」
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)千葉県の工場でアルバイトをしていた
「肌が綺麗で、年齢より若く見える子」ホテルで交際相手の11歳年下ネパール留学生を殺害した浅香真美容疑者(32)は実家住みで夜勤アルバイト「元公務員の父と温厚な母と立派な家」
NEWSポストセブン