◆国をあげて生産性向上に取り組むドイツ

 したがって、このジレンマから逃れるためには労働時間を減らしても成果があがるようにすること、すなわち労働生産性の劇的な改善が必要になる。

 そこで注目したいのが、生産性向上の優等生ともいえるドイツである。

 正社員の年間総労働時間がわが国の4分の3程度と短く、なおかつ一人あたりの名目GDPが日本より高いドイツでは、生産性向上のためにAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を活用した「インダストリー4.0」に国をあげて取り組んでいる。企業はコストに見合った利益があがる仕事に特化するなど、徹底した合理化を進めている。

 高度技術社会に適応した人材供給のシステムも備わっている。ドイツでは年齢が低い段階から職業教育が行われ、高等教育機関も総合大学のほかに知識の応用や実務を重視する専門大学が多い。そして企業は職種を限定して社員を採用し、人材紹介会社やヘッドハンティングによる中途採用も盛んに行われている。

◆ホワイトカラーの生産性向上が急務

 それに対してわが国では、いまだ目立った改革は実行されていないのが現状だ。とくに改革が遅れているのは非製造業、そしてオフィスなど間接部門である。

 日本生産性本部が行った産業別生産性の分析によると、わが国は化学、機械などの産業ではアメリカの水準を上回っているが、販売・小売、飲食・宿泊などのサービス産業ではアメリカの3割か4割程度の水準にとどまっている。IT化の遅れに加えて、過剰なサービスや、コンビニやファストフード店などコストに見合わない長時間営業も原因である。

 また、しばしば指摘されるようにホワイトカラーの仕事にムダが多く、生産性向上の足を引っぱっている。

 たとえば、あいかわらず意思決定は複雑で時間がかかるうえ、会議が長く参加者も多い。会議のための資料づくりなども考慮に入れると、それに費やすコストは膨大である。オフィスなどにおけるITの導入も、欧米などに比べ遅れている。また製品にしてもサービスにしても、過剰なまでの完璧主義がコストの削減を妨げている実態もある。詳しくは拙著『ムダな仕事が多い職場』(ちくま新書)でも書いた。

 キャリア形成に面では、「ゼネラリスト育成」の名の下に大学の専門とは無関係に社員を採用し、数年でローテーションを行う方式も、高度専門化社会においては大きなハンディとなっている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン