最近では好々爺のような役もやるように

八名:約60年間俳優をしていて、「世の中に役に立ってるのかな」と考えるようになったのは、東日本大震災がきっかけ。悪役商会も何度か被災地にボランティアに行ってるんだけど、その時、10才くらいの子供が言ったんだ。「ぼくは家が流されて、おばあちゃんと妹がまだ見つかっていません。なにもなくなった。ぼくには故郷がありますが、帰れない故郷なんです」。

 この言葉に衝撃を受けて、何か役に立ちたいなって。それで故郷の大切さ、家族の絆をテーマに2年がかりで映画を作って、全国27か所を回って無料で上演しました。

――今年も9月から、2作目の監督映画『駄菓子屋小春』が公開されます。

八名:1作目の映画にボランティアで参加してくれた方の中に、熊本出身者がいました。熊本地震が起きた1か月後、自分が大変な時に、「阿蘇の水はおいしいですよ、これを飲んで映画を完成させてください」と被災地から水を送ってくれたんです。これはたまらなかった。

 それから、熊本のために何ができるかなと考えていた。それで、熊本ですべて撮影する映画を製作しようと。子供から年寄りまで現地の人に出演してもらって、熊本でインタビューをして1年くらいかけて本を書いて。そうすれば、ロケ場所も熊本だし、現地にお金が落ちるでしょ。悪役が出ないと面白くないから、災害にあった土地を買い占めようとする地上げ屋を、悪徳商会がやりました。いままで1200回以上、役で死んでるけど、馬から落ちたり、沼で倒れたり、ろくな場所で死んでないんだよね(笑い)。いつか畳の上で死にてえな、と思っているんだけどね。

――俳優と監督を両立するのは大変でしたか?

八名:監督としてカメラをのぞいてるじゃないですか。撮影終わって役者たちのほうを見たら座るスペースがなぜかあいてる。「なんですき間があるんだよ」と言うと、おれが出るシーンが次にあったらしく「ここは監督が座る所です」って言われたりしてね(笑い)。それに、役に戻るのに時間がかかる。目が監督になるんだね。5分くらい時間をもらって、役者に戻ってから撮影しました。

――映画の費用は、すべて八名さんの持ち出しだそうですね。

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