国内

大口病院連続点滴中毒死事件と終末期医療の現場の苦悩

人を助けたくて医療の仕事を選んだが……

 基本的に人の命を救いたくない医師はいないように、命を軽んじる看護師もいない。ところが、あまりに厳しい仕事に疲れ果て、何を尊重すべきなのかが分からなくなることがあるのだという。終末期医療を担う看護師が患者を殺害したことが明らかになった事件を聞き動揺する同業者たちの苦悩について、ライターの森鷹久氏がレポートする。

 * * *
 神奈川県横浜市の大口病院(当時)で、現役の看護師が患者の点滴に消毒剤を混入させ、高齢の男性患者が亡くなった事件。

「自分がいないうちに(患者に)亡くなってほしかった──」

 事件発生から二年を経て、逮捕された女性看護師が語った動機は、我々一般人にとっては衝撃的なものだった。しかし、終末期医療を担う医療現場で働く人々には「改めて現実を突き付けられた」ものだったのかもしれない。

「もちろん殺人はいけないことだが、 犯人の気持ちは……わからなくもない。看護師は、ほとんどが人の命を救いたいという思っているはずですが、終末期医療の現場は、救うというよりは看取るだけ。人が亡くなるのが当たり前になって、ご遺族への対応も事務的になってくると、自分は何のために看護師になったのかと、思い悩むことはあります」

 都内の総合病院傘下で、主に終末期医療を受ける高齢者ばかりが入院するA病院に勤務する丸尾直也さん(仮名・30歳)が力なく語るのは、終末期医療という現場の過酷さであり、そこで働く医療従事者達の悲痛な叫びである。

「事件のあった病院では、 数か月で数十人が亡くなったと報道で見ました。それがすべて犯人によるものかはわかりませんが、我々の病院でも、医療ミスや看護師の不適切な処理で亡くなったと思われる患者さんが複数います。食べたくないという食事を無理にのどに押し込んだことで調子が悪くなった、点滴液の分量にミスがあったなど……。ただ、それが直接の死因かどうかなんてわかりませんし、調べません」(丸尾さん)

 丸尾さんには、祖父が脳出血で寝たきりになり、介護した経験がある。祖父は体こそ動かなかったものの、意識はしっかりとしており最後の瞬間には祖父から“ありがとう”と声をかけられた。だからこそ、終末期医療の現場を志したし、血の通った暖かい気持ちで、患者や遺族にも接してきた。だが、現場ではあまりにも人の死が日常的で、近すぎた。それらは仕事であり、人が死ねば、できるだけ短時間で処理をし、遺体を遺族のもとに引き渡す、いわば流れ作業のようになっている。

「人の死には慣れたのかもしれません。ご遺族も、終末期医療施設に親族を入居させているということを理解していますから、亡くなったって病院の責任にする人はいないし“仕方ない”で終わる。横浜の事件は、そうした現場の雰囲気があったからこそ起きたのだと思うし、同じようなことが他で起きても驚かないと思います」

関連記事

トピックス

大谷翔平の投手復帰が待ち望まれている状況だが…
大谷翔平「二刀流復活でもドジャースV逸」の悲劇を防ぐカギは“7月末トレード” 最悪のシナリオは「中途半端な形で二刀流本格復活」
週刊ポスト
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン
“進次郎劇場”で自民党への逆風は止まったか
《進次郎劇場で支持率反転》自民党内に高まる「衆参ダブル選挙をやれば勝てる」の声 自民党の参院選情勢調査では与党で61議席、過半数を12議席上回る予測
週刊ポスト
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
「生肉からの混入はあり得ないとの回答を得た」“ウジ虫混入ラーメン”騒動、来来亭が調査結果を公表…虫の特定には至らず
NEWSポストセブン
左:激太り後の水原被告、右:2月6日、懲役刑を言い渡された時の水原被告(左:AFLO、右:時事通信)
《3度目の正直「ついに収監」》水原一平被告と最愛の妻はすでに別居状態か〈私の夢は彼と小さな結婚式を挙げること〉 ペットとの面会に米連邦刑務局は「ノー!ノー!ノー!」
NEWSポストセブン
“超ミニ丈”のテニスウェア姿を披露した園田選手(本人インスタグラムより)
《けしからん恵体で注目》プロテニス選手・園田彩乃「ほしい物リスト」に並ぶ生々しい高単価商品の数々…初のファンミ価格は強気のお値段
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談
ヨグマタ相川圭子 ヒマラヤ大聖者の人生相談【第24回】現在70歳。自分は、人に何かを与えられる存在だったのか…これから私にできることはありますか?
週刊ポスト