こうした実情があってか、一般的な病院などに比べて、終末期医療の現場では看護師や医療従事者の離職率が高い傾向にあるという。大口病院からほど近い総合病院で終末期医療に携わる現役医師も、現状に頭を悩ませる一人だ。
「看護師は食いっぱぐれもなく、どちらかと言えば高給で、なり手は多い職種です。ただし、終末期医療の現場を経験すると、多くの人が思い悩んだりして病む。入ってきては辞め、というサイクルが短く、常に人手が足りません。現場に慣れ切ったベテランか、もしくは他で使い物にならなかったからやむを得ず、という人々の割合も高く、人間関係でのトラブルが起こりやすい。介護の現場も同様ですが、単なる仕事、とは割り切れないほどの重圧があるわけです。看護も介護も、これからの時代に必須であるにも関わらず、彼らの心のケアを訴える声は上がりませんね。終末期医療は今後もどんどん需要が上がります。これでは現場は破綻するしかありません」(現役医師)
横浜の事件で逮捕された看護師の女は、現状、二人の高齢男性が殺害された事件でのみ立件される予定だが「他にも数十件やった」と供述している通り、同時期に同病院で亡くなった数十名の患者についても、女が手を下した可能性がある。
「看護師のくせに人を殺すなんて……」
「元々精神的におかしかったのでは」
「死刑にすべき」
事件を受けて、こうした意見がSNS上に飛び交った。看護師の女は「死刑も覚悟している」と話しているというが、彼女をただ断罪し、普通ではない人が起こした普通ではない事件、と見過ごしてはいけない。終末期医療の現場で働く人々の存在を見つめなおし、彼ら、彼女たちの置かれた現状について、今こそ議論されるべきではないだろうか。さもなければ、老人が数人亡くなったところで、誰も気にしないことが当たり前という世界になりうるし、すでにそうなっている場所があるのだ。