晩年まで現役の役者であり続けた津川。邦画界でも屈指のキャリアの持ち主は、現場で若手とどう接していたのだろう。
「すてきな若手はたくさんいるんだ。で、一緒にいるときには、『あの映画のあの役はよかったね』とかちゃんと伝えるようにしているよ。そういうふうにして、なるべく彼らの考え方に自分もついていくようにならないと。若い人たちの会話にはついていけないんだけどさ、ついていけないのは、奴らだけのせいじゃなくて、こっちの理解不足もあるんだよね。だから、若い連中のことも理解できればと思っているんだよ。
そこはお互いさまでね。みんなにも教える代わりに、みんなにも教えてもらいたい。そういう思いで付き合うのは仕事をしている上で大事なことなのさ」
子役時代を含めて七十年に及ぶキャリアの中で、津川は一つのイメージに留まらず年を経るごとに異なる芝居を見せてきた。
「これは物凄く抽象的なことでもあるので難しいんだけどさ。歳を取ってくると分かることもあるし、歳を取ってこないとできないこともある。だから歳を取るっていうことは、役者の世界では、マイナスばかりではなくてプラスもたくさんあるんだよ。元気であれば、いくつでも歳を取ったらいいな」
さらに歳を重ね、どんな芝居を見せてくれたのだろうか──。
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2018年9月21・28日号