ゲストの「四十路チアガールズ」キュリアスがダンスショーを繰り広げた後で高座に上がった百栄が演じたのは、架空の江戸っ子検定試験の「チャキチャキ級」過去問題を読み上げる、という形式の『江戸っ子検定』。設問に対する正答のバカバカしさが素敵な小品で、百栄はたいてい何かのオマケのようにこれを演る。この日は続けて『あたま山』へ。
身投げをしようとする男を見かけた清掃作業員が呼び止めると、男は「頭の上に桜が生えて……」と話し始める。医者は「落語の『あたま山』みたいだな」と言うばかり、頭の上で人々がバカ騒ぎするのでイヤになり、桜を引っこ抜いて出来た池に飛び込んで死ぬのだと言う(バカ騒ぎの場面でキュリアスが高座に出てきて踊りまくったのには笑った)。
2人の会話だけで進行するこの噺、いい加減な態度で応じる清掃員の聞き違いのバカバカしさがメインで、実のところ男の頭に本当に桜が生えたのかどうかもわからない。最後にまた清掃員が聞き違えてオチ。この無責任さが落語らしくていい。古典『あたま山』を題材とした、百栄ならではの見事な新作である。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2018年10月5日号