国内

認知症の人への接し方、「否定しない」が正しいが難しいもの

認知症による記憶障害に「否定」はNG(写真/アフロ)

 認知症の母(83才)の介護をすることになった54才の娘・N記者(54才)。妄想や同じことを繰り返す母に対して、否定するのはNGとわかりつつも難しいと語る。

 * * *
 6年前、母は父の急死を機に検査で認知症と診断され、私は母が治療やプロのケアを受けられる環境を整えた。

 それはよかったのだが、母と私の関係に“認知症患者と介護者”という新たな側面が加わり、それが自分でも思いがけない負担になっていた。

「アルツハイマー型認知症は、記憶障害が典型的な症状。だから、間違っていると責めたり、矛盾を追及したりしてはダメですよ」と、ケアマネジャーからは口を酸っぱくして言われたし、どの認知症の本を読んでも、同じことが書かれていた。それでも本人を前にすると、頭での理解など何の役にも立たなかった。

 ある日「さっきね、団地にいた頃のお友達が遊びに来たのよ」と、母が電話してきた。

 さっき…? いや、今日はデイサービスだったはず。

「そんなはずないよ。今日はデイサービスだったでしょ?」

「…じゃあ、デイサービスの後かしら? それでね、お金がなくてお茶菓子も買えなかったの。恥かいちゃった! 私のお金はどこへやったの!」

 絵に描いたような“取り繕いと物盗られ妄想”だ。私は一気に頭に血が上った。

「私がママのお金を盗るわけないじゃない! ちょっと考えればわかることでしょ!?」

 ひどいセリフを吐きながら、頭の片隅ではケアマネジャーの「否定しちゃダメよ!」という声も聞こえていた。

 認知症でも母は母だ。今日はデイサービスに行って、帰って来て不安になり、電話をしてきたのだ。そんな、目に見える現実を母と共有したかった。私がお金を盗っていないと認めてほしかった。「へえ、そうなんだ~。お友達に会えてよかったね」などと、心にもない返事をするのは、母への裏切りのように思えた。

「この世で2人だけの母娘なのに、私までウソをついたら誰が母の味方になるのだ」という思いが拭えなかった。

 しかし、私が心を整理できずに葛藤しているうちに、母の妄想や混乱はどんどんひどくなっていった。

 母の話に合わせればすむものを、それができずに悶々とすること1年あまりが経った。われながら厄介な性格である。

 4年前にサ高住に転居し、ヘルパーさんなど、介護のプロに囲まれて生活するようになると、母の妄想や混乱はめきめきと改善した。

 眺めていると、やはりヘルパーさんたちは“否定せずに”対応してくれているのだ。

「そうなんですか~。さすがMさん(母)、気配りができてるわ~。見習わなきゃ!」などと、母の長所を見つけて褒め言葉もプラスしてくれる。母は明らかに幸せそうだ。わかってはいたが、やはりこれが正解。情けないが私もヘルパーさんを見習って、「そうなんだ、よかったね」とやっと言えるようになった。

 私としては何となく心がないように感じるが、母は嬉しそうだ。そして会話はどんどん弾む。今ではますます上手に対応できるようになったが、やはり胸はチクリと痛む。でもそこは、私が大人になろうと思っている。

※女性セブン2018年10月11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン