「松平(※慶民を指す)は平和に強い考えがあったと思うのに 親の心子知らずと思っている だから 私あれ以来参拝していない それが私の心だ」
これが報道されたとき、おもに右の人たちから「信じられない」「このメモは偽造だ」といった否定的な反応が相次いだ。メモが遺品だったため、「なぜ死ぬ前に焼いておかなかったのだ」と富田を非難した人もいる。
一方、A級戦犯の合祀や政治家の靖国参拝などに反対する左派の中には「昭和天皇もこう言っているではないか」と、持論の補強材料にした者もいた。
右も左も、自分に都合のよい天皇の発言は利用し、気に入らない発言はなかったことにする。その点については、戦前も戦後もあまり変わっていない。
【PROFILE】秦郁彦●1932年、山口県生まれ。東京大学法学部卒業。現代史家として慰安婦強制連行説や南京事件20万人説などを調査により覆す。著作に『昭和天皇五つの決断』『慰安婦問題の決算』『実証史学への道』など。
●取材・構成/岡田仁志(フリーライター)
※SAPIO2018年9・10月号