先日も母の好きな観劇に行き、幕が下り、拍手喝采で顔を見合わせて「面白かったね」と言い合った直後のこと。劇場のロビーを歩きながら母が、「やっぱり落語はいいわね」と、嬉しそうにつぶやいた。
頭ではわかっていても、やはり驚く私。その表情に気づいて母はサッと顔を曇らせた。でもまたしばらく歩くと、すぐに母の気分は変わる。これも認知症のせいなのか。
劇場近くのあんみつ屋に入ると、すぐさま、おいしそうなメニューやにぎやかな女性客たちに目を向けた。
「インスタ映え~」と、隣席で若い女性があんみつにスマホを向けている。すかさず母、
「あら、うちの娘もそれよくやるわよ。何やってるの?」
女性は一瞬、驚いたが、すぐに笑顔で説明してくれた。
母はすっかり友達のように、「写真!! うちの娘、雑誌の記者なの。あなたも記者?」
なんだか筋が通っているような、いないような、おかしな空気にみんなが笑った。
母は最近、こんな空気づくりが上手になった気がする。次々に忘れるが、意外に鋭い観察眼もブラッシュアップ。認知症でも絶賛進化中なのだ。
※女性セブン2018年10月25日号