ライフ

チューブ調味料がかつてない活況 進む個食化も後押しか

調味料の様式も時代と共に変遷(写真:アフロ)

 普段料理をしない人が最近のスーパーマーケットをつぶさに観察すると「チューブの増殖」に驚くのかもしれない。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。

 * * *
“チューブ型調味料”の躍進が目覚ましい。わさびやからしといったスタンダードな薬味だけでなく、最近は柚子こしょうやホースラディッシュといった肉に合う薬味も増えた。極めつけは、昨年ヱスビー食品が発売した「きざみパクチー」。苦手な人は徹底的に苦手な食材だが、何度かのブームを経て、パクチーはこの数年で調味料として定着。薬味系チューブ調味料はかつてない活況を呈している。

 薬味系ばかりではない。近年の調味料のチューブ化を加速させたのは、中華系調味料だ。先鞭をつけた味の素の「クックドゥ 香味ペースト」は2011年に中部・北陸7県限定で発売した後、翌年の2012年から本格展開。発売3か月で初年度の販売目標を達成した。以来、ヱスビー食品やユウキなど中華系調味料の大手メーカーも、豆板醤や甜麺醤といった調味料のチューブを前面に押し出した展開に乗り出した。

 瓶入りの調味料とは異なり片手で扱うことができ、スプーンなどの洗い物も出ない。家庭のキッチンで作業する者にとって、手数をひとつでも減らすのは至上命題であり、実際それまで売上が横ばいだった中華系調味料はチューブ系調味料の投入でマーケットの拡大に成功した。

 そもそも国内メーカーが樹脂チューブ入りに大きく舵を切ったのは1960年代のこと。最初はマヨネーズだった。現代ではマヨネーズと言えばキユーピーと味の素の製品がスーパーの棚にずらりと並んでいるが、ことここに至るには様々な展開があった。

 日本で初めて市販されたマヨネーズは、現代でも代名詞のような存在となっているキユーピーマヨネーズだと言われている。1925(大正14)年、関東大震災後の復興をきっかけに西欧化が進むなか、「マヨネーズ」という新しい調味料が発売された。初年度の売上はわずか600kg。当時は整髪料と間違えられることすらあったが、1941(昭和16)年には約500トンもの出荷を記録したという。

 その人気は当時の新聞からも伺える。戦時下でマヨネーズが入手困難になった1942(昭和17)年の新聞では「野菜の生食がさかんにすすめられてゐるが、これをおいしく喰べる野菜サラダにつきもののマヨネーズ・ソースがさつぱりない」とマヨネーズ不足を嘆き、「重宝な代用マヨネーズ」として、油、小麦粉、砂糖、酢、だし汁などで作る代用マヨネーズのレシピを提案しているほどだ(朝日新聞1942年3月26日朝刊)。

 話がマヨネーズで塗りたくられそうなので、話をチューブに戻そう。第二次世界大戦後、1948(昭和23)年にマヨネーズの生産を再開したキユーピーは1958(昭和33)年、「ポリボトル容器」のマヨネーズを発売する。ここから日本のチューブ調味料の本格的な歴史が始まる。1966(昭和41)年にはカゴメが「ケチャップ世界初」のチューブ型容器を採用。この頃からマヨネーズ、ケチャップのメーカーは、一気に樹脂チューブ容器を採用しはじめ、生産量は一気に増えていく。

 さらに1972年、ヱスビー食品がねりわさびをチューブ型の容器で発売する。一度に少量の使用しか見込めず、「生」の保存が難しい調味料という意味では現代のパクチーにも通じる開発の背景が伺える。

 そして個食化も進んだ今年2月、ヱスビー食品が「フライパン1つで、「煮込まず」「少ない材料」「1人前から作りたい分だけ」カレーを作ることができる」チューブ型のカレーペースト「炒(チャー)カレー」を発売した。

 チューブ調味料は時代ごとに微妙にそのニーズが異なる。高度成長期のマヨネーズ、ケチャップという「消費促進」期があり、その後、食が豊かになった時代にはわさび、からしのように「少量使用ニーズ」を満たした。そこにパクチーや中華系調味料のような「多様な食」という要素が加わった。今年発売されたヱスビーのチューブカレーは、「手軽な個の自炊」という新地平を拓くことができるか、注視していきたい。

あわせて読みたい

関連記事

トピックス

ビエンチャン中高一貫校を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月19日、撮影/横田紋子)
《生徒たちと笑顔で交流》愛子さま、エレガントなセパレート風のワンピでラオスの学校を訪問 レース生地と爽やかなライトブルーで親しみやすい印象に
NEWSポストセブン
鳥取の美少女として注目され、高校時代にグラビアデビューを果たした白濱美兎
【名づけ親は地元新聞社】「全鳥取県民の妹」と呼ばれるグラドル白濱美兎 あふれ出る地元愛と東京で気づいた「県民性の違い」
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン
『ルポ失踪 逃げた人間はどのような人生を送っているのか?』(星海社新書)を9月に上梓したルポライターの松本祐貴氏
『ルポ失踪』著者が明かす「失踪」に魅力を感じた理由 取材を通じて「人生をやり直そうとするエネルギーのすごさに驚かされた」と語る 辛い時は「逃げることも選択肢」と説く
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《巨人の魅力はなんですか?》争奪戦の前田健太にファンが直球質問、ザワつくイベント会場で明かしていた本音「給料面とか、食堂の食べ物がいいとか…」
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン