ひるがえって、今の日本社会を見てみると、後醍醐の「新儀」はさらに興味深い問題を提起している。平成という時代は、格差が拡大・固定化され、身分社会・階級社会への移行が進んだ時代である。日本の閉塞した現状を考えるうえでも、後醍醐の「新儀」はなんらかのヒントになり得るかも知れない。
なお、理念化された「王政」のシステムが近世の身分制社会を相対化し、また現代の象徴天皇制へも引き継がれている仕組みについては、私の新著『後醍醐天皇』(岩波新書)を参照していただければ幸いである。
【PROFILE】兵藤裕己●1950年愛知県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。文学博士。専門は中世日本文学。『後醍醐天皇』『王権と物語』『太平記〈よみ〉の可能性』『〈声〉の国民国家・日本』ほか、著書多数。
◆取材・構成/岸川貴文
※SAPIO2018年9・10月号