◆細かく指定しないのが望ましい
尊厳死をどう捉えているかを、事前に頭の中で整理しておく必要がある。「申告マニュアル」は、専門家の協力を得ながら、尊厳死宣言を作成するにあたって、考えておくべきポイントをまとめたものだ。家族や親しい人と話し合いながら記入すれば、自分の考えをまとめ直す機会になると同時に、周囲に意思表示することにもなる。
申告マニュアルには、必要ないと考える延命治療の内容を記入できる欄を設けた。これはあくまで「胃ろう」や「経鼻チューブ」「人工呼吸」といった具体的な延命治療の内容を知ることで、宣言する上での理解を深めることが主たる目的で、実際の尊厳死宣言では細かく指定しないほうが望ましいという。
「望まない治療の内容を細分化して書き込んでしまうと、“書いていない治療はやっていいのか”という話になってくる。医学が進歩して新しい種類の延命治療が生まれるかもしれない。したがって、治療方法を指定しないほうがいいと思います」(前出・向井氏)
作成された尊厳死宣言の原本は公証役場が保管する。コピーにあたる謄本を自分の手元に置いたり、家族に渡したりすることで意思の共有を図る。
ちなみに、後になって気が変わり、一度作成した尊厳死宣言の内容を破棄したい場合、役場での手続き等は必ずしも必要ではないという。前出・向井氏はこういう。
「自分が持っている謄本を破棄し、その内容を伝えていた人に“あの話はなかったことにしてくれ”と伝えるのも一つの方法。保管している原本を破棄するという手続きはない。公証役場で、『前に作成した尊厳死宣言を撤回する』という証書を新たに作る方法はあるが、私は一度もそうした依頼を受けたことはありません」
※週刊ポスト2018年11月2日号