奈月が毎年お盆を過ごす秋級は、著者の父方の故郷がモデルとか。険しい山道を延々ゆき、ようやく辿り着く元農家には〈蚕の部屋〉や〈お仏壇の部屋〉があり、毎夏名前を覚えきれないほどの親戚が集まって〈送り火〉を焚くのも、団地育ちの奈月には楽しみだった。
「私自身も団地育ちで、ザリガニを獲った川や自然が次第に失われゆく中で育ったので、あの、夜は闇しかなくなる感じとか、送り火がゆらめく感じを、いつか小説の舞台に書き留めておきたかったんです」
だが母と姉は父の故郷を毛嫌いし、ヒステリックな母や姉に父が何も言えないのもいつものこと。そんな一家の不満の〈ゴミ箱〉にされてきた奈月には、〈秋級の山で、宇宙船から捨てられてたのを拾ってきた〉という母親の言葉を真に受け、宇宙に帰る日を待ちわびる由宇が羨ましくさえあった。
そして夏祭りの日のこと。伊賀崎先生の自宅に呼び出された奈月は、何か〈ぬるりとした温かいもの〉を含まされ、〈ごっくんこ〉する特別授業を先生に強要される。それまでにも先生に〈すこしだけおかしいこと〉をされたことはあった。が、そのおかしさを言葉にできない。〈いつになったら、生き延びなくても生きていられるようになるの?〉と由宇を問いつめた奈月はやがて彼との仲すら引き裂かれ、宇宙船も結局、2人を迎えに来てはくれないのである。
◆私には妙なポジティブさがある