尊厳死宣言が広がれば、そうした現実が少しずつ変わるかもしれない。日本公証人連合会の向井壯氏がいう。
「仮に裁判となっても、公正証書があれば裁判所の判断材料において強い証明力を持ちますから、本人の意思があった、という点については認められると考えられる」
尊厳死宣言の記載は、罪に問われることを恐れる医師にとっても“救い”となり得る。一方で、やはり法的拘束力はないため、医師が患者の希望に沿えるよう、その免責を法的に位置づけるべきという意見もある。
◆気が変わってもいい
『安楽死を遂げるまで』(小学館刊)の著書があるジャーナリストの宮下洋一氏は、尊厳死宣言に一定の評価を与える。
「日本人は自分の明確な意思を示しづらい国民性を持っていると感じています。『私文書』での意思表明は、自分の考えよりも、“そろそろ自分は死んだ方が子供たちのためにも良いんじゃないか”といった気遣いや、“介護や医療費が嵩んでいるな”という思いが優先されがちです。
だから、迷いがあってもサインしてしまうことがあるんです。そういった点では、公証人という第三者が意思を確認する尊厳死宣言は、従来の事前指示書よりは正当性があると言えるかもしれません。