溝口:本来、ヤクザは“働かないこと”に価値がある。彼らの誇りとは、「腰に手ぬぐいぶら下げて肉体労働してない」ってことにあるわけだから。わざわざ10メートルも海に潜ってナマコを獲るなんて、昔なら考えられない。密漁がシノギになっているのは、ヤクザが困窮して、肉体労働せざるを得なくなっているという側面もあるんでしょうね。
鈴木:それはあるでしょうね。昔は根室で北方領土近海のカニを獲るヤクザが“働くヤクザ”と特別視されていたくらいですから。
溝口:これは消費者には直接関係ないけど、ヤクザと漁業のつながりでいうと、漁業権の存在も大きいですね。漁業権があるからよそ者の排除や漁獲期、稚魚の保護などのルールが生まれる。それを侵すことによって、高値取引が可能になる。
鈴木:10年前に北九州市で漁協組合長が射殺されて、指定暴力団・工藤会の犯行として総裁まで逮捕される事態になった。これも漁業権が絡む港湾開発の利権争いをめぐるものだったと言われています。
溝口:ヤクザにとって港湾開発は大きいシノギ。空港やなんか作ろうとすると、集まってくる建設業者、とりわけ生コン業者から1平方メートルあたりいくら、とピンはねすることで莫大なカネが暴力団に流れる。六代目山口組の高山清司若頭はそれで相当儲けたと聞いています。
鈴木:ちなみに、六代目山口組の司忍組長は大分水産高校を卒業した後、下関で大洋漁業の漁船に乗っていました。漁師出身のヤクザは結構多いんです。
※週刊ポスト2018年11月9日号