歳をとるにつれて「切らずに済むようになるがん手術」もあるという。
「甲状腺がんは、前立腺がんと同様に命に関わらないケースが多いことがわかっています」(室井氏)
兵庫県・隈病院の伊藤康弘医師が1993年から2011年まで行なった研究では、10年間の間にどれだけの割合で甲状腺微小がん(1センチ以下)が進行するかを年代別に調べた。その結果、40歳未満では12.1%の人に増大が見られたが、40~59歳では6.1%、60歳以上だと4.0%にしかみられなかった。
「若ければすぐに外科手術で取り除きますが、60歳以上ではまず経過観察をし、大きくなったら取ればいい、と判断するケースが増えているようです」(同前)
大腸がんは他の部位に比べて比較的手術によって切除しやすいと言われていたが、近年では75歳以上の患者で「治療しない」選択をする人が増えている。
昨年8月、国立がん研究センターが全国のがん拠点病院の症例を集計したデータでは、ステージ4で「治療なし」の割合は65~74歳では6.7%だが、75歳以上だと14.7%と倍に。85歳以上では36.1%にのぼる。室井氏がこう話す。
「高齢者になると、肛門に近いところのがんであれば手術後に人工肛門の設置を余儀なくされたり、腸の一部が狭くなって腸閉塞を起こし、食事の摂取が難しくなるなどQOLが落ちる可能性がある。手術を受ける場合でも、内視鏡技術の発達により開腹しなくても良いケースが増えています」