同様の研究結果が複数発表されたことにより、“前立腺がんは切らなくてもいい”という論調が世界中に広まっていった。日本でも同年、日本泌尿器科学会が「前立腺癌診療ガイドライン」に「監視療法」、すなわち“治療しない”という選択肢を盛りこんだ。
「これは数か月ごとに検査を行ない、症状の悪化が見られた時点で初めて治療を開始するという意味です。2013年には、米国放射線腫瘍学会も『早期の前立腺がんは安易に治療を開始せず監視療法を検討するように』との勧告を出しています」(室井氏)
その理由に「手術によるデメリット」がある。岡田氏が続ける。
「前立腺がんの手術では、排尿障害やED(勃起障害)などが起きることがある。これは、外科手術により男性器周辺の神経を損傷してしまうためで、米ノースショア大学の論文によれば、前立腺がんを外科手術で治療した人の79~88%になんらかのEDの症状が出たとの報告があります」
肺、大腸、胃に続いて死亡者数が多い肝臓がんの治療も様変わりしている。開腹手術以外の選択肢として、カテーテルを使って肝動脈を塞ぐ物質を注入しがんを壊死させる「肝動脈塞栓術」が以前から用いられているが、近年注目されているのが陽子線治療だ。
「従来の放射線治療は肝臓の健康な組織を傷つけるため吐き気や痛みを伴うケースがあり、あまり用いられてきませんでした。しかし『陽子線治療』ならがん組織だけに強い放射線を当てることができるため、健康な組織を傷つけることが少ない。体への負担が少ないだけでなく、再発しても繰り返し治療できるメリットがあります」(医師で医療ジャーナリストの富家孝氏)
◆「60歳以上ならすぐ切らない」