ロックな生き方だった

 彼女の生き方を示す、クスリと笑ってしまうエピソードがある。どこか地方の会館のオープニングセレモニーに招待されたときのことだ。ホテルに前泊し、当日の朝、自分で着物を着つけていたら、帯締めを忘れてきたことに気が付いた。ピンチである。

 ホテルの部屋の中を見渡して、ひらめいたのが、電気ポットのコードだった。端っこにプラグが付いていて余分だが、コードの質感が帯のいいアクセントになった。

 セレモニーには皇室の方も来られていて、ごあいさつをした。「いいお着物ですね」と言われ、帯の中に隠したプラグを見せたい衝動に駆られたという。ちゃめっけたっぷりなのだ。

 樹木さんは、いつだって「今、ここ」で勝負してきた。役者という仕事がそうである以上に、生き方がそうなのだろう。だから、どんな失敗もめげない。それを味や笑いにも変えてしまう。まるで、はじめからそれを狙っていたかのように。

 そんな樹木希林的生き方に、たくさんの人がファンになった。

 彼女の最期からは、自己決定の大切さを学んだ。「最期は自宅がいい」と娘夫婦に言い、その通りになった。孫の声が聞こえるところで、「じゃあ、ありがとう」となったらいい。そう語っていた10年前が、つい昨日のことのようだ。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。

※週刊ポスト2018年11月23日号

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