「商標が登録されれば、その商標の使用希望者は登録者に許可をもらう必要があり、使用にあたって対価が発生する可能性も出てくる。すでに商標登録済みのジャンルについては、手続き上、松竹がその許諾権を有すると考えられます。
出願した時点で松竹に先願権(最初に出願した者がそれ以後の出願を排除できる権利)は発生する。興行についても、『すでに出願中で、もし商標登録された時は、その対価を請求する』と申し立てることが可能になります。ただし、特許庁で登録されなければ、最終的にはすべての権利が消失します」
平野氏は、興行としての歌舞伎については判断が複雑になると話す。
「興行における『歌舞伎』の商標登録はなかなか難しいと思います。興行に対しての『歌舞伎』という名称、呼称は広く世に浸透していると考えられるからです」
『松竹と東宝 興行をビジネスにした男たち』の著作のある作家・中川右介氏はこう話す。
「400年の歴史を持つ伝統芸能を1社が管理するというのは馴染まないと思います。昔はライバル会社による『東宝歌舞伎』もあったくらいです。その理屈が通れば、『能』や『狂言』にも同じことが起こりかねない。伝統芸能が一民間企業の占有物になるのは好ましくない」