近江鉄道の新八日市駅前。駅前広場やロータリーも整備されていない。


 歴史遺産のような駅舎は、東京だけに存在するものではない。地方都市にだって歴史遺産・名建築とされる駅舎はある。

 近江鉄道の新八日市駅は大正時代に建設された木造駅舎で、薄緑色の駅舎は洋風建築の雰囲気を漂わせる。

「新八日市駅舎は、東近江市にとって貴重な歴史的建築物です。そのため、地域住民のコミュニティスペースや観光客が立ち寄れるギャラリースペースとして整備を検討したことがあります」と話すのは、新八日市駅舎が立地する東近江市交通政策課の担当者だ。

 新八日市駅舎は、近江鉄道の前身である湖南鉄道の本社屋としても使用されていた。現在、1階の待合スペースは利用者に開放されているが、きっぷ売場だった事務スペースおよび2階は閉鎖されている。

「新八日市駅の再活用が決まらない一番の理由は、財源的な問題です。近江鉄道では、昨年に隣町の日野駅がリニューアルされています。日野駅は全国屈指の古い木造駅舎として知られ、地元民のみならず鉄道ファンや建築ファンからも人気があります。そのため、日野駅はクラウドファンディングでリニューアル資金の一部を集めたようです。新八日市駅の活用でもクラウドファンディングを活用する案が出ましたが、実際に資金が集まるかも未知数。そのため、具体的な今後は決まっていません」(東近江市交通政策課担当者)

 博物館動物園駅も一般公開までに、長い歳月を要した。

 鉄道利用者の少ない地方では、駅舎がなくホームだけの寂しい駅は無数にある。また、建て替えによって駅舎が簡素化されてしまうことも日常茶飯事だ。

 歴史的建造物のなかでも、とりわけ駅舎の保存は難しい。寺社をはじめ、我が国の産業発展に貢献した建築物などは文化財指定で生き残る術がある。文化財指定を受ければ、ミュージアムや観光名所として再び脚光を浴びるだろう。

 一方、駅舎は交通機関としての役割を課せられている。多くの人が往来する駅は、時代に適した耐震性や防火性が求められる。また、一日5000人以上の乗降客がいる駅は、バリアフリー化にも取り組まなければならない。

 とにかく、古い駅舎は維持管理に莫大な費用を要する。とにかく、古い駅舎は使い勝手が悪いから鉄道会社にも利用者にも忌避される。

 その一方、新しく建て替える方が安上がりで済む。くわえて、新たに駅ビルを賃貸して稼ぐこともできる。公共交通という社会的な責任を負っているとはいえ、鉄道事業者も民間企業だ。収支で考えれば、駅舎を保存するという選択はまずあり得ない。

 生き残るためには、旧国立駅舎のように安住の地に文化財として移築保存されるしか術がない。

 唯一の例外は、空中権の販売で保存が叶った東京駅の赤レンガ駅舎だろう。しかし、そんな東京駅赤レンガ駅舎も取り壊して高層化する計画はあった。バブル崩壊と重なり、東京駅高層化計画は白紙撤回されて今に至っている。

 博物館動物園駅や新八日市駅などの歴史的な駅舎が、そのままの姿で残っているのは奇跡的といえるだろう。このまま何も策を講じなければ、無用の長物との烙印を押されて取り壊されることは必至だ。平成も終わりを告げようとしている今、歴史的価値のある駅舎に残された時間は少ない。

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