狭小店で名を上げるニューフェイスがいる一方、すでに飲食業界で確固たるポジションを築いたシェフはトレンドの逆を行く。

 年の前半にはイタリアンの巨人、山田宏巳シェフが南青山に「テストキッチンH」をオープン。100名以上の客を軽々と格納する、広々としたオープンキッチンの店舗で、山田シェフが鍋を振り、自ら料理の提供も行うサービス精神に客は大喜び。連日盛況となっている。

 銀座では長く「銀座レカン」の総料理長をつとめたフレンチの重鎮、高良康之シェフが「レストラン ラフィナージュ」を10月にオープン。こちらは20席という席数でうち8席がカウンターというシェフズテーブルで、「トラフグ×ロックフォールチーズ」など、驚くような素材の組み合わせ(しかも強烈にうまい)の皿や精妙な火入れの肉料理で食通の話題を席巻している。

 昨年から続くトレンドとしては「辺境グルメ」の深化と進化だ。例えばイタリア料理店なら、これまで「ローマ」「ナポリ」など日本でもよく知られた地域の料理を出す店は多かったが、最近ではフリウリ州、エミリア・ロマーニャ州など、これまで知られていなかった地方色の豊かな料理を出す専門店が人気を獲得している。

 中華料理でも似たような現象があり、数年前には国内にほとんどなかった「湖南料理」を掲げた店が近年立て続けにオープンしている。「李厨」(高田馬場)のように客席でも中国語が飛び交うような店もあれば、「香辣里」(三軒茶屋)のように女性客の多い店も。また「湖南」だけでなく、「台南」「雲南」という異なる地域の素材や調理法を組み合わせた料理を提供する「南三」(荒木町)も開店からほどなくして、2カ月先まで予約でいっぱいという繁盛店となっている。

 少なくとも「味」という面において、2018年の日本の外食市場はこれ以上ないほど成熟している。根本的な原因を探ればファミレスの苦戦も、辺境グルメの深化も実は「市場の成熟」という文脈のなかにある。

 一方、最大の課題である労働や人手不足の解決への道のりは長い。なぜなら根本的な解決には、外食における「客の成熟」が欠かせないからだ。「お客様は神様」という言葉を取り違えて尊大に振る舞ったり、やたらと「コスパ」を連発するような客を一掃……、もとい啓蒙しなければ、飲食店を始めとする全サービス業に苦しさがつきまとう。「(店も客も)相手を必要以上に尊重しすぎることなく」「いいものにまっとうな対価を支払う」。当たり前の経済活動を通して、現代人の精神性は2019年も試され続ける。

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