「彼らと積極的に接しようとする地域住民はとても少ない。イスラム教徒に対する偏見や警戒心がある」

 蕨市の老舗商店主はクルド人に対して「迷惑をかけられることも、問題があるわけでもない。ただそこにいる人たちというのが正直な実感」と話していた。川口市には多くの中国人が暮らす芝園団地がある。生活習慣の違いから地域住民と衝突した時期もあったが、分断を乗り越えようと意見交換や交流が進んでいる。

 だが、隣のワラビスタンと地域住民には衝突はおろか接触もほとんどない。蕨市のケバブ屋にも足を運んだ。店員は片言の日本語を話したが、5人いた客のクルド人は日本語をほとんど理解できなかった。経済的にも時間的にも日本語を学ぶ余裕がないのかもしれない。その上、住民との交流がなければ、日本語に触れる機会も限られる。

「命の危険がない日本で子どもに教育を受けさせたいと考えるクルド人は多い。彼らは未来への可能性を次の世代に託すしかないのです」

 今後、日本を目指すクルド人難民は増加するだろうと松澤さんは指摘する。ヨーロッパで移民を制限する国が増えているからだ。ワラビスタンは、生まれ故郷を捨てざるをえなかったクルド人にとっての希望だ。だが、そこに漂うのは分断や格差の兆しというよりも、うっすらとした閉塞感である。それでもJさんは「トルコで暮らすよりもまし」と語る。その一言が、クルド人が置かれた厳しさを端的に物語っていた。

【PROFILE】山川徹●1977年、山形県生まれ。東北学院大学法学部法律学科卒業後、國學院大學二部文学部史学科に編入。大学在学中からフリーライターとして活動。著書に、『カルピスをつくった男 三島海雲』など。

※SAPIO2018年11・12月号

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