在日クルド人の不満が爆発したのが、渋谷区のトルコ大使館前で再選挙の在外投票が行われた2015年10月25日のことである。会場にはワラビスタンからもたくさんのクルド人が足を運んだ。会場に翻る「クルド労働者党」の旗に反発したトルコ人とクルド人が乱闘事件を起こして、8人が負傷して2人が逮捕された。
逮捕された1人は川口市で暮らすクルド人だった。日本でもクルド人とトルコ人は激しく対立している。しかしMのオーナーはクルド人で、シェフはトルコ人だという。常連のJさんはトルコ人に対する反感はないのだろうか。「ありませんよ。シェフはいい人です。トルコ人にもいい人もそうでない人もいる。それは日本人も同じでしょう」と彼は苦笑いした。
◆偏見と警戒心
蕨駅や西川口駅近辺にはコリアンタウンや中華街のような匂い立つエキゾチズムはない。クルドの香りをわずかに感じるのは、Mをふくめた数軒のトルコ料理店やケバブ屋くらいだ。在日クルド人を支援する「クルドを知る会」の松澤秀延さんはこう説明する。
「クルド人たちは一箇所に集住しているのではなく、蕨市、川口市の広い地域に点在して暮らしています。それにまだ2000人程度ですから、目立つ存在ではないのです」
2003年にスタートした「クルドを知る会」は、地域住民の交流活動以外にも、教育や医療のサポート、入管の施設に拘束された人への面会などを行ってきた。