井上:お墓の研究をしている井上治代先生というかたが「50年、100年先のことを考えて選ばなくていい。お墓はお参りする人のものだから、その人が生きている間を考えて、その対象としてのお墓を選んだらいいと思う」とおっしゃったんです。私、その言葉にドキッとしました。
つまりは、自分がお参りする立場でいい立地を選んでも、それが子供たちにとっていい立地かどうかわかりません。自分がどこに入りたいか、いくつか候補を挙げた上で、最終的には子供に決めてもらう方法がいいなと思いました。
仲野:それはもう、代々のお墓じゃなくて、個人のお墓という考えなんでしょうね。
井上:以前は代々のお墓に入るしかなかったわけですが、今は家を引っ越しするのと同じように、いろんな選択肢があって、新しいお墓を選べる時代になってきていると思うんです。その意味では個人の墓、バンザイですね。
仲野:この先はもっと個人墓の時代になりますか?
秋田:井上さんの本の中にも書いてありますが、昔から宗教法人法とか寺院規則の中では、檀徒とか信徒という個人を想定しているんですよ。檀家という言葉は出てこないんです。
井上:私はこの『いまどきの納骨堂』の取材の過程で初めて知って、ビックリしました。檀家という言葉は今も普通に使われてますよね。でも、法律では檀家じゃなく、檀徒なんですよ。
秋田:だから個人墓になっていかざるを得ないのはわかりますが、檀家というものをただ古臭い制度だと、私には言い切れないですね。というのも、そこには昨日今日ではない長く家の中で引き継がれてきた物語があるわけですから。
井上:ちょっと、その辺が…。お墓によって引き継がれてきた家というのは、男系でしょう? この本の取材過程で200人ほどに「おたくのお墓は?」とヒアリングしたところ、特に女性の答えには、そのお墓に最後に入った義父や義母との生前の関係や、介護の話がくっついてきて、「あの世に行ってまで、ヨメはご遠慮したいわ」とおっしゃる人がずいぶん多かった。
今まで、お墓は古い家制度と直結していて、しんどい思いをしていた女性がどれだけいたか。だから、それを抜きにして、代々引き継がれるお墓は素敵ですね、とは言えないですね。