サブタイトルに「文芸記者が見た文壇30年」とあるように著者は日本経済新聞の元文芸記者だが、新聞記事をまとめたものではなく、取材メモを元に書き下ろされたものだ。
文章も読みやすく、すっと全体像がつかめる。
なるほどと思わせた考察が幾つもある。
例えば第三章「中上健次の死と文壇の崩壊」。
中上健次は生涯、谷崎潤一郎賞にこだわっていた。
それは単に賞がほしいといったレベルのものではなかった。著者はこう分析する。「中上は文壇の保守的な体質を批判しながらも、文壇を猛烈に愛した心底からの文壇人だったのである。だから文壇の勲章ともいえる谷崎賞を受賞できないことは屈辱だった」。
その谷崎賞を中上よりも若く、しかも非文壇的な村上春樹が『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で受賞する。その時、中上健次は、「ひどく気分を害していた」と著者は回想する。つまりこの時日本文学は決定的に変ったのだ。
※週刊ポスト2019年1月1・4日号