◆承認欲求を「搾取」する企業
認められるために残業していることを示唆する別の調査結果もある。内閣府が2013年に行った調査によると、労働時間が長い人ほど、上司は残業している人に対してポジティブなイメージをもっていると考えている。そして労働政策研究・研修機構の調査では、労働時間が長い職場ほど残業する人を高く評価する傾向が表れている。
いずれにしても、上司や同僚に認めてもらわなければならないという気持ちが背後にあって、それが過剰な残業や休暇の取りにくさにつながっていることは間違いなさそうだ。
それがアルバイトになると、問題はいっそう深刻である。飲食店やコンビニなどでは、アルバイトの学生が責任ある仕事を任されているケースが多い。彼らはそれを意気に感じ、期待を裏切らないようにとがんばる。なかには学業が犠牲になったり、体調を崩したりするケースもある。たかだか1000円程度の時給で、正社員並みの大きな責任を背負っているのだ。
仕事のやりがいと引き替えに低賃金で働かせることが近年問題になり、教育社会学者の本田由紀氏はそれを「やりがいの搾取」と名づけた。その言葉をもじるなら、認められたい、期待に応えたいという気持ちに便乗しておよそ賃金に見合わない働き方をさせるのは“承認欲求の搾取”と呼ぶべきだろう。
◆「働き方改革」の足かせにも
東南アジアに進出した日本企業のマネジャーが、次のような話をしていた。
現地の社員が仕事をがんばったので褒めたら、相手が賃上げを要求してきたそうだ。「自分の努力や貢献を認めたのだから賃金を上げてくれて当然だ」という理屈である。日本人の感覚からすると厚かましいようだが、見方によれば筋が通っているともいえる。承認欲求の搾取から身を守るには、これくらいのドライさが必要なのかもしれない。
長時間労働や働き過ぎ(働かせすぎ)といえば、業務量の多さや顧客対応の必要性、それに残業の強要といったハードな部分ばかりに目が向けられるが、実は人間関係や心理的プレッシャーなどソフトな部分が背後でそれに拍車をかけている場合が多い。そこにメスを入れなければ、「働き方改革」もブラック企業の撲滅も中途半端に終わるだろう。