◆日本人に多い「認められるための残業」
そこでつけ込まれる形になっているのが、人間の承認欲求である。承認欲求とは、他人から認められたい、そして自分を価値ある存在だと認めたいという欲求である。いわゆる名誉欲や自己顕示欲も承認欲求に含まれ、それが満たされないときは意地や嫉妬など屈折した形で表れることもある。
特に日本人の場合、承認欲求は積極的に認められたいというより、「認められなければならない」「期待に応えなければならない」といった受け身の形であらわれやすい。そこからくるプレッシャーが、しばしば鬱などを引き起こしたり、さまざまな社会問題をもたらしたりしている。
長時間の残業やがんばり過ぎもその一つであり、ときには過労死や過労自殺につながる場合もある。それは拙著『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)にも詳しく書いた。
労働政策研究・研修機構が2010年に実施した「年次有給休暇の取得に関する調査」では、有給休暇を残す理由(複数回答)を聞いているが、「職場の周囲の人が取らないので年休が取りにくいから」(42.2%)、「上司がいい顔をしないから」(33.3%)といった回答が上位に入っている。
また同機構が2005年に行った調査では所定労働時間を超えて働く理由について聞いており、「上司や仲間が残業しているので、先に帰りづらいから」と答えた人が10.3%いる。
一般にこのような調査では心理的負担より仕事量の多さや顧客対応などの理由が多めに表れる傾向があり、インタビューの結果などから推察すると、同様の心理的負担を感じている人はもっと多いのではなかろうか。