ライフ

食のトレンド エシカル、つまり倫理的消費が前提に

生活者は良心と欲望の間で揺れ動く(写真:アフロ)

 食べ物は人間活動のエネルギーだが、社会や文化がまとう空気にも左右される。一方で脈絡のない仕掛けでは決してブームは起きないのだという。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が2019年のトレンドについて指摘する。

 * * *
 各業界で「次のトレンド予測」企画が飛び交う。もちろん「食」ジャンルもだ。予測の根拠には「前年から続く傾向」「社会的な要求」「需給の事情」などさまざまな背景がある。

 昨年末の予想で、2019年を「辺境と懐古の1年」だと位置づけた。中華やイタリアン、東南アジアなど海外の辺境食の身近な形での提案が増え、とんかつや焼肉など誰もが知る懐かしい料理も新スタイルが目につくようになる1年になると書いたが、少し補足しておきたい。

「食の傾向」は地続きだ。基本的には動植物を食材とする以上、食の傾向は突如沸き上がるものではない。連綿と続く流れと蓄積の上で、情報量や人々の興味関心が臨界点を超えるとブームやトレンドになる。脈絡のない仕掛けだけではブームは起き得ない(翻って言えば、流れをうまくすくい取れば、ある程度のブームの創出は可能ということにもなる)。

「辺境」「懐古」といったキーワードはそうした蓄積の上にあるものだ。明治時代に日本に入ってきた「西洋料理」「支那料理」と呼ばれた外国の食は、主に第二次大戦後、堂々と日本風にカスタマイズされていった。その象徴が「大衆洋食」「大衆中華」と呼ばれるカテゴリーだ。現代の飲食店にある日常的なメニューだけでも、例を挙げればきりがない。ハンバーグ、ラーメン、カレー、ナポリタン……。この4つのメニューだけでも源流となる国はすべて違う。

 一方、バブル以降になると現地に赴いてその食文化に触れた日本人も増えてくる。それは「海外」などと呼ばれる曖昧などこかではなく、パリや北京と言った都市部とも限らない。巨大な食文化圏の隅のほう、地方の町や村で出会った料理に惹かれ、国内に持ち帰る人が増えてきた。

「辺境」の食文化は生活の中にある。異文化圏の生活に密着した食文化が、すぐさま異国の日本で受け入れられるとは限らない。人が感じる「おいしさ」をひもとくと、そのひとつに「文化的おいしさ」があるとされる。長くその地域で暮らすことによって育まれ、土着の食に対して磨かれる味覚だ。日本で言えば味噌や納豆など、欧米人が首をかしげるような食べ物への味覚がそれにあたる。

 ではなぜ日本人は初めて訪れる辺境の味を「おいしい」と感じたのか。それは「大衆洋食」「大衆中華」という「文化的おいしさ」の足がかりがあったからではないか。日本風にカスタマイズされているとはいえ、そこには源流の香りは残されている。

 さて「前年から続く食の傾向」だけでずいぶんと紙幅(紙ではないが)を取ってしまった。トレンド予測の根拠となるふたつめの「社会的な要求」は環境問題からSNSで表現されるような「気分」までさまざまな要素を内包する。例えば環境問題に近いところで言えば、フェアトレードやアニマルウェルフェア(動物福祉)といった「エシカル(倫理的)消費」が前提となるはずだ。

「倫理的」と聞くと「SNSで表現されるような気分」とは遠く見えるかもしれないが、結局のところ景気や消費行動は生活者の気分に左右される部分も大きい。

関連記事

トピックス

遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平バースデー》真美子さんの“第一子につきっきり”生活を勇気づけている「強力な味方」、夫妻が迎える「家族の特別な儀式」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
東京・新宿のネオン街
《「歌舞伎町弁護士」が見た性風俗店「本番トラブル」の実態》デリヘル嬢はマネジャーに電話をかけ、「むりやり本番をさせられた」と喚めき散らした
NEWSポストセブン
横浜地裁(時事通信フォト)
《アイスピックで目ぐりぐりやったあと…》多摩川スーツケース殺人初公判 被告の女が母親に送っていた“被害者への憎しみLINE” 裁判で説明された「殺人一家」の動機とは
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《女優・遠野なぎこのマンションで遺体発見》近隣住民は「強烈な消毒液の匂いが漂ってきた」「ポストが郵便物でパンパンで」…関係者は「本人と連絡が取れていない」
NEWSポストセブン
記者が発行した卒業証明書と田久保市長(右/時事通信)
《偽造or本物で議論噴出》“黄ばんだ紙”に3つの朱肉…田久保真紀・伊東市長 が見せていた“卒業証書らしき書類”のナゾ
NEWSポストセブン
JESEA主席研究員兼最高技術責任者で中国人研究者の郭広猛博士
【MEGA地震予測・異常変動全国MAP】「箱根で見られた“急激に隆起”の兆候」「根室半島から釧路を含む広範囲で大きく沈降」…5つの警戒ゾーン
週刊ポスト
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト
東川千愛礼(ちあら・19)さんの知人らからあがる悲しみの声。安藤陸人容疑者(20)の動機はまだわからないままだ
「『20歳になったらまた会おうね』って約束したのに…」“活発で愛される女性”だった東川千愛礼さんの“変わらぬ人物像”と安藤陸人容疑者の「異変」《豊田市19歳女性殺害》
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で、あられもない姿をする女性インフルエンサーが現れた(Xより)
《万博会場で赤い下着で迷惑行為か》「セクシーポーズのカンガルー、発見っ」女性インフルエンサーの行為が世界中に発信 協会は「投稿を認識していない」
NEWSポストセブン