その生活者は常に「良心」と「欲望」の間で揺れ動いていて、どちらかに振り切れることはまずない。どちらに振るか舵を取る原動力が気分であり、その気分は時代や置かれた立場・環境などで変わる。国内で言えば、マグロやウナギの漁獲問題もそうだし、捕鯨問題における海外との意識格差もそうだ。
米大手流通のホールフーズ(Whole Foods)が予測した2019年の10の食トレンドに含まれる「購入動機の後押し」「環境に優しいパッケージ」といったトピックは世界的な「社会的要求」そのものだ。
「購入動機の後押し」は、環境への責任、動物愛護、販売元企業の雇用モデルなどさまざまな範囲に及ぶ。日本でも企業への好感度・信頼度が売上に直結する例は多々あったし、「環境に優しいパッケージ」に至っては、礼賛するのが当たり前という空気さえ漂っている。
もっともホールフーズの予測は、日本には当てはまらないところもある。南国のトロピカルフルーツを指す「環太平洋の香り(食材)」は環太平洋の日本では長く親しまれている食材だし、「海藻以外も含めた海産食材」も日本ではとうの昔から使われている。2017年以降、トレンド予測で複数回取り上げられた「プロバイオティクス」というキーワードは発酵文化圏に住むアジア人には生活に根ざしたものだ。
一方「代替肉スナック」のように日本人の感覚ではまだ理解しづらいトレンドワードもある。グローバリズムがどんなに進んでも、大衆食文化はそう簡単にはフラットにはならない。一筋縄ではいかない腰の強さがあるからこそ、大衆食は魅力的なのだ。
こちらから見るか、あちらから見るか。広く網をかけるとすれば「辺境化」は世界的に起きている食のトレンドであり、世界から見れば日本もまたひとつの辺境なのだ。