「ロシア側が求めているのは、“国内的には不法占拠した島はないと説明する。それに対して日本は反論するな”という方向だと考えるべきでしょう。
ポイントになるのは1956年の日ソ共同宣言9項の〈歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する〉という項目において『引き渡し(ロシア語で〈ペレダーチャ〉)』という言葉が使われていることです。日本側にとっては、この『引き渡し』が『返還』であり、ロシア側にとっては『合法的に移転した領土の贈与』になる。そして双方の解釈については、非難しない。そういう落としどころに抜けていこう、というシグナルが発せられた。ロシア側が『解決すること』を前提にしているからこういう議論が出てくる。交渉をまとめたいという明確なシグナルでもあるのです」
◆“渡す側”のほうが難しい
ただ、佐藤氏は今回、交渉進展への不安点も垣間見えたと指摘する。
「問題は日本の外務省がそうした背景を周知するブリーフィングをできていないことです。だから、報道もロシア側が厳しい姿勢であることを強調するトーンになる。秋葉剛男事務次官、森健良外務審議官といった幹部クラスは訓練された優秀な外交官だが、問題はその下の部下たち。上層部を支え切れていない。
鈴木宗男事件(※注)以降、日ロの交渉は停滞し、外務官僚は対ロ外交で抜き差しならない局面を経験していない。いわば“練習試合すらしていない高校球児”がいきなり甲子園の大観衆の前で試合をしているような状態になっています。
【※注/2002年、ロシアに幅広い人脈を持ち、北方領土について「二島先行返還」の可能性を探っていた鈴木宗男衆議院議員(当時)が、東京地検特捜部により斡旋収賄罪などで逮捕された事件。国策捜査であるという批判が根強くある】