【著者に訊け】長月天音氏/小学館文庫小説賞受賞作『ほどなく、お別れです』/小学館、1300円+税
清水美空(みそら)は就職活動で連戦連敗中の大学四年生。半年前までアルバイトしていた葬儀場「坂東会館」の先輩から人手不足だと電話をもらい、バイトを再開する。〈半年ぶりの仕事がたとえどんなに忙しいものになろうとも、自分の居場所があるだけで救われる気がした〉からだ。
美空はそこで、元社員で現在はフリーの葬祭ディレクターである漆原と、彼の友人で僧侶の里見と出会う。特別な事情のある葬儀を専門とする漆原は、〈“気”に敏感な〉美空の能力を、同じように霊感のある里見に教えられ、自分が担当する葬儀を手伝うよう声をかける。美空自身、はっきりとは気づいていなかったが、幼くして亡くなった美空の姉、美鳥がどうやら美空のそばにいて、彼女を見守っているようなのだ。
ベストセラー『神様のカルテ』の著者、夏川草介氏が「私の看取った患者さんは、『坂東会館』にお願いしたいです」と熱烈な推薦を寄せる2018年小学館文庫小説賞の受賞作は、著者である長月さん自身が経験した別れの悲しみから紡ぎ出された作品である。
葬儀場をじっくり描いた小説というのがまず珍しい。〈世間のにぎわいから隔絶された、厳かな別れの儀式を行う場所、つまり、非日常の世界〉が葬儀場だ。あの世とこの世を分かつ特別な場所には、さまざまな思いを抱えて人々が交差していく。
「美空と同じように、大学時代に私も葬儀場でバイトしていたんです。新聞の求人広告で見た時給の高さにひかれて応募したんですけど、人間ドラマがすごくいっぱいある場所でした。いつかここを舞台にお話を書きたいと、ずっと思っていました。お通夜や葬儀の流れやスタッフの働き方は、実際に働いていたからこそ書けたものです」