「小さいお子さんや若い人の葬儀って、年配の方のときとは全然、雰囲気が違っていたんです。なんともいえないつらさや、やりきれない気持ちを慰めてあげられる人がいたらいいな、というのはずっと感じていたことでした」
長月さん自身、2年前に夫を病気で亡くしている。1歳年上で、まだ30代の若さだった。結婚したのはスカイツリーが開業する少し前のことで、小説で描かれた土地は2人の思い出深い場所だという。
「人は死んだらどうなるんだろうって、身内を亡くした人の本をいろいろ読んだりしてずっと考えてるんですけどやっぱりわからなくて。結局、自分がどう信じたいかだと思うんです。
主人が亡くなって私はすごく寂しくて、彼が見守ってくれていると思いたい。生きてるときと同じように、朝起きたら写真に向かって『おはよう』と言ったりしています。そういう経験のない人から見ると『ばかみたい』って思われるかもしれませんけど、そうすることで自分の心が救われるんです」
印象に残る場面がある。ホールスタッフとして忙しく立ち働く美空は、空になった食器を見るたびに、こう感じるのだ。〈生きている人はどんな時でも食べなくてはいけない〉〈たとえこのような場所でも〉
「お清めの席で、さっきまで泣いていた人がすごくたくさんご飯を食べることがあるんです。それって、やっぱり生命活動なんですよね。私も、主人の病気のことでは何回も打ちのめされましたけど、不思議とあきらめる、ってことはなかったです。
結婚してから何度も何度も入院と手術を繰り返して、それでもやっぱり、この入院が最後になるかもしれない、すべて終わったら楽しい生活が新たに始まるかもしれない、っていつも思っていました。生きていく、って本質的にポジティブなことで、生きている限り人は、前に進んでいかなきゃいけないんですよね」