◆患者不在の対応
前出の自治医大病院関係者によれば、現在、中止していた心臓血管外科の手術は再開されているという。この間、一連の出来事は世間に公表されることはなかった。
文部科学省が2007年に作成した「大学附属病院における医療上の事故等の公表に関する指針」では、医療従事者や医療機関の過失によって患者が死亡した場合、速やかな公表を求めている。
過失のない死亡事故でも、「予期しなかった、若しくは予期していたものを上回る合併症」の場合、報告書をまとめた上で、〈公表が望ましい〉としている。
2015年には医療事故が発生した際、医療機関から第三者機関(医療事故調査・支援センター)へ届け出て、事故の原因を究明する「医療事故調査制度」が導入された。
しかし、当初、年間最大2000件と予想された医療機関からの届け出件数は、年間平均400件弱にとどまる。今回の自治医大病院の事故が報告されたかどうかを医療事故調査・支援センターに問うたが、「守秘義務があるため答えられない」との回答だった。医療問題に詳しい中川素充弁護士が指摘する。
「過失の有無を別にしても、術後に患者が死亡し、原因調査のために数か月にわたって手術が中止されたならば、病院の社会的信用や、組織としてのコンプライアンスの観点から、世の中に対して『予期せぬ合併症が発生し、原因究明するまで手術を中止します』というメッセージを出すべきでした。再発防止の点からも、事実を公表しないまま手術を再開した病院側の姿勢には強い疑問が残ります」