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那覇市民はなぜアイスクリームをあまり食べないのか

暑いからといってアイスの需要が伸びるわけではなさそう

 データをつぶさに眺めていると、不思議に見えることがままある。消費に偏りがありそうにもない食品で偏りが出ていたり、また思ったほどその地域には好まれていなかったり…。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。

 * * *
 この2月、総務省の家計調査2018年版が発表された。直後、とあるテレビの情報番組から取材依頼があった。「アメちゃん購入量、大阪より金沢が上位なのはいったいなぜ?」というような各地域の食事情の解説をしてほしいというもの。取材内容は番組がまとめてフリップで紹介されるということだった。

 電話取材時には、それなりに筋道立てて話をしたつもりだったが、番組のほうでは駆け足になったこともあり、少し言葉足らずだった印象だったので、本稿で補足をさせていただきたい。

 まず番組から聞かれたのは「那覇市民はアイスを食べない。いったいなぜ?」というもの。総務省の家計調査は全国の都道府県庁所在市及び政令指定都市を対象としているが、確かに那覇市は「アイスクリーム・シャーベット」に対する品目別支出金額(総世帯)は全国でもっとも少ない。全国平均が7771円に対して那覇市は4636円。

 一説には「気温が30℃を超えるとアイスクリームは売れず、氷菓が売れる」という話もあるが、元の調査には「シャーベット」も含まれているし、いくら沖縄とは言え1年中30℃超えを記録しているわけではない。30℃超えは真夏の3か月程度。そもそもアイスクリームから氷菓に流れるなら、そこまで支出が減るとも考えにくい。

 どちらかというと乳脂肪分の多い製品が全般に人気薄なのは確かなようで、バターは全国平均835円に対して那覇市436円とこちらも最下位。「他の乳製品」という項目も、全国平均399円に対して181円と少ない。ちなみに「他の乳製品」が何を指すかというと生クリームやホイップクリーム、コーヒー・紅茶用クリーム(植物性を除く)、練乳など。ついでに言うと牛乳も全国平均1万2229円だが那覇市は8836円と下から2番めだ。

 乳酸飲料や牛乳など脂肪分の高い飲み物は、春から夏にかけて売り上げが伸びる一方で、盛夏は売り上げが伸び悩むとも言われる。乳脂肪分が多めの製品は、那覇市では忌避されがちと言っても差し支えないだろう。

 さて冒頭に書いた「アメちゃん購入量 大阪より金沢が上位なのは?」の理由についても触れておきたい。

「アメちゃん」については家計調査の項目では「キャンデー」となる。総世帯調査では全国平均が1806円で金沢市が2205円、一方大阪市は1666円となっているが、これは金沢の成り立ちを考えればむしろ当然とも言える。

 実はキャンデーに限らず、チョコレートやビスケット、まんじゅうなどの小分類の甘味において金沢は上位の常連。もっと言えば「菓子類」という大きな項目も含めて甘い物に目がない。

 そもそも江戸幕府開府の頃から、加賀藩が茶道に力を入れたことから、高度な菓子文化が生まれ、独特な形で花開き、根付いていった。現在では京都市や松江市と並ぶ「日本三大菓子処」としても知られる。約400年もの間、「菓子と茶」という甘味と苦味の伝統はいまも引き継がれている。

 その他の質問項目では「小麦粉購入量、長野が1位、大阪は下位なのはなぜ?」という項目もあった。

 そもそも長野は「おやき」「だんご汁」「すいとん」などの家庭における粉食文化が盛んな地域。古くからから米と麦の二毛作が行われていて、粉食を常食としてきた地域だ。米は年貢や販売用、麦は家庭の食事用という棲み分けで「粉食」が生活にも根づいていた。

 加えて家計調査はあくまで「家庭での消費」なので、外食はカウントされない。俗に「粉モン文化」などと言われる大阪では、お好み焼きやたこ焼き店など外食店が充実している都市部では、自家消費用の食材・素材は伸び悩む傾向がある。

 ちなみに小麦粉で言うと奈良、大津、京都、大阪、神戸あたりはパンに年間2万8000~2万9000円前後を支出するが、長野は2万3411円にとどまる。逆に長野はうどん・そば、スパゲッティ、中華麺など麺類全般について消費支出が多い。同じ小麦粉を原料とする食品でも、地域に育まれた文化によって消費者の嗜好は変わっていく。

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