「劇団にお金がなくて。それで小沢昭一さんと私が『日活と契約して映画で金を稼げ』と言われたんですよ。年に五本という契約でしたが、多い年は年に十二本ぐらい出ました。午前に女学生役をやって午後は芸者とか。
俳優座養成所を出ているから何でもできると思われていて私には演技指導はなかったのですが、養成所では理論しか教えてもらってないんです。だから基礎も知らなくて。
でも、養成所の名前を汚すわけにはいきませんからね。それで裏で小道具さんの所に行ってお酌の仕方を教わったり、衣装さんに着物を着せてもらって芸者の所作を教わったりしました。
ですから今でも『私は映画育ちです』と言っています」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2019年3月8日号