面白いのは、元々研究肌で何事も〈あたまで考えすぎ〉な主人公が、試合前に対戦相手を研究するうちに脳内で〈親友〉になってしまうこと! 彼は夢の中で相手を〈青志くん〉と呼び、その行動パターンや人間性まで妄想してしまうのだ。

 だが実際はレバーを連打され、最後は右アッパーをくらい3RKO。友情は脆くも裏切られるが、彼はわかってもいた。〈つぎの相手がきまるまで、この試合の日の記憶と、いまビデオをみていた真夜中の記憶の中間で生きる〉〈ありえたかもしれないKO勝ち、ありえたかもしれない判定勝ち、ありえたかもしれない引き分け、ありえたかもしれない判定敗けを、パラレルに生きる他ないのだ〉

◆余地や揺らぎのある小説を書く

 そんな彼にも友人はいた。〈趣味で映画を撮っている友だち〉だ。主人公を呼び出してはその姿をiPhoneに撮りため、試合が決まると必ず小旅行をプレゼントしてくれる友人の前でのみ、彼はなぜだか素直な思いを言葉にすることができた。

 あるいはジムの先輩格で、トレーナー役を買って出た〈ウメキチ〉だ。幸い次の対戦が決まった彼に戦術の変革を命じ、毎朝弁当まで用意してくれるウメキチを、しかし彼は完全に信用できず、ひとまずゲーム感覚で相手を信じる、〈信頼というゲーム〉まで編み出すのだ。

「結局、誰かを信じるのも一種の契約だと思います。まして自称〈体育会ひとみしり〉の彼は、精神論を妄信したり、スポ根に出てくる典型的で孤独なボクサーになり切れない自分を持て余している。そんな彼を、〈考えるのはおまえの欠点じゃない。長所なんだ〉と解放してくれたのが、このウメキチでした。

 友人関係でも彼は曖昧さを悉く疑い、より確かなものを探している。この友人はそれをよくわかっていて、その時々の彼の姿を映像の形で撮ってくれていたことが、主人公にとっては凄く大きかったと思います」

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン