表題の1R1分34秒とは、「そこに至るまでに要した全ての時間を思えば呆気なく、それでも互いの力を確かめることはできる、絶妙な決着時間」とか。そんなギリギリの勝利を主人公が夢想し、〈きっと勝つ〉〈そうしたら記憶をひからせてやるからな〉と決意しては揺れ動く場面で物語は幕を閉じる。試合結果は知れずじまいだが、彼の過去現在未来が再び輝きを取り戻すであろうことだけは信じられる、ボクシングを超えた成長小説だ。
【プロフィール】まちや・りょうへい/1983年浅草生まれ。「3歳からは埼玉県の越谷育ちです」。高校卒業後、フリーターを経て、現在会社員。2016年『青が破れる』で第53回文藝賞を受賞。同作は三島賞候補ともなり、2018年『しき』で芥川賞候補、今年本作で第160回芥川賞を受賞。「身長はぜひ言っておきたくて、157cm、50kg、B型です。最近は高身長のイケメン俳優が多いからか、漫画の実写化等でも、元の作品世界が歪められがちですし、小柄男性の地位を少しでも上げていきたいんです(笑い)」
■構成/橋本紀子 ■撮影/三島正
※週刊ポスト2019年3月15日号