2席目は『富久』。古今亭なら志ん生の型で演りそうなものだが、菊之丞は先代文楽の型で、千両富の当たりくじは「松の百十番」。菊之丞の演じる久蔵は可愛げがあって実にいい。あくまで「幇間の物語」という部分にスポットを当てた文楽演出の本質をきちんと理解している。ちなみにマクラでは『いだてん』撮影現場でのエピソードを語ったのだが、松尾スズキ演じる橘家圓喬の高座をモニターで見ながら横にいた男に「圓喬が『付き馬』でトリを取るなんてあり得ない、脚本がなってない」と話しかけたら実はそれがクドカンだった、というのは笑った。
3席目は『柳田格之進』。志ん生から志ん朝へ受け継がれた古今亭の型に忠実に、「武家の誇り」を貫く父娘を見事に描く。ただし、柳田から事情を聞いた萬屋が吉原から身請けした娘きぬは、その後両家が再び交流を深めた後、萬屋の番頭徳兵衛と結ばれるのではなく、萬屋の一人息子と結ばれて、間に出来た男の子に柳田の家名を継がせた、という演出。きぬが吉原に身を沈めた元凶である番頭と一緒にさせるのは納得できない、という現代人の感覚にフィットするハッピーエンドだ。
古今亭の「顔」として、この1年でグッと知名度が上がるだろう菊之丞。飛躍の時も遠くなさそうだ。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年3月22日号