【著者に訊け】瀬尾まいこ氏/『傑作はまだ』/1400円+税/ソニー・ミュージックエンタテインメント
実の子ではある。〈だけど家族じゃない〉父と息子の、これは25年越しの出会いと始まりまでの物語である。
瀬尾まいこ氏の最新長編『傑作はまだ』の主人公は、学生時代に作家デビューし、以来ひたすら家にこもって執筆に耽る、〈加賀野正吉〉50歳。ある日、彼は〈実の父親に言うのはおかしいけど、やっぱりはじめましてで、いいんだよね?〉という息子〈永原智〉に突然転がり込まれ、なぜか同居する羽目に。智の母〈美月〉にはこれまで月10万円の養育費を送り、毎月写真が送られてはきたが、正吉が会いに行くことは一切なかった。
最近、近くのローソンで働き始めたという智は彼を〈おっさん〉と呼び、特にわだかまりも感じさせない。そんな息子のペースに巻き込まれるまま正吉はスタバや〈からあげクン〉の味を覚え、何より人と関わり、生活する喜びを、50にして初めて知るのである。
2001年の初小説『卵の緒』では〈育夫は卵で産んだの〉と言い張る母と息子の、形にならない絆を。また昨年の話題作『そして、バトンは渡された』では、訳あって3人の父親と2人の母親をもつ少女の成長譚を描き、何が家族を家族たらしめるかが、元教師だった著者の一貫したテーマにも映る。
「私としては誰かと誰かのやり取りの面白さを書きたかっただけで、特に家族に拘りはないんですけどね。ただ私が教師だった頃に『自分の子はもっと可愛いよ』って言う人がいたんですけど、いざ産んでみると娘も教え子も可愛さはどっこいどっこいで、血の繋がりはあまり関係ないなって思っているのは確かです」