スポーツ

羽生結弦、なぜ大差で敗北したのか 採点の謎を追う

完璧な演技のはずが、ネイサン・チェン(右)に負けた羽生結弦(写真/アフロ)

『Origin』の荘厳な調べに合わせ、冒頭の4回転ループを鮮やかに決めた。その後、4回転サルコウ、4回転トウループ、トリプルアクセルで着氷し、演技が終了。リンクの中央で右の拳を握った羽生結弦(24才)は、絶対王者の姿に見えた。

 3月23日、さいたまスーパーアリーナで行われた「世界フィギュアスケート選手権」で、羽生は銀メダルを獲得。世界最高得点323.42点を叩き出した、「4回転の申し子」ネイサン・チェン(19才・アメリカ)との間には22.45点の差があった。

 表彰式後の会見で羽生は終始苦笑いを浮かべていた。

「納得のいく採点ではなかったかもしれません。完璧に近い演技をして、20点以上も差がついたことに疑問を感じた関係者は少なからずいましたから」(スポーツ紙記者)

 21日のショートプログラム(以下SP)で羽生は、ジャンプのミスもあり、フリープログラム(以下FP)前に、チェンと12点以上の大差がついていた。しかし、4回転に加え、チェンに勝る表現力などで逆転は不可能ではない、とファンは信じていた。

 FPでは、チェンも羽生も圧巻の演技を見せた。しかし前述の通り、SPとの合計点の差はさらに開いた。その理由について、元フィギュアスケート選手の渡部絵美さんが話す。

「羽生選手の4回転サルコウには回転不足と着氷ミスがありました。それにジャンプの種類もチェン選手とは“差”があったのです」

 フィギュアの点数は大まかにいえば「技術点」と「演技構成点」の2種類。ジャンプやステップなどが前者で、表現力といわれるものが後者となる。両者は公平にポイントが割り当てられているわけではない。

「4回転の中でも難しいルッツは11.5点ですが、これに出来栄え点などのさまざまな加点があります。実際にチェン選手はFPの4回転ルッツで16.26点を叩き出しています。一方、表現力はそこまでの加点はありません。FPで羽生選手は素晴らしい表現力を見せて演技構成点ではチェン選手に勝ったものの、ジャンプで劣り、技術点で大きく水をあけられた。その結果が点差に表れたのです」(スポーツライター)

 羽生は今大会、自らが史上初めて成功させた4回転ループなど3種類の4回転を入れ、プログラムを構成していた。

「羽生選手にとって現在のベストを選択していましたが、これでは完璧な演技をしても、点数が高い4回転ルッツなどを組んでいたチェン選手には勝てなかった可能性が高い」(前出・スポーツライター)

 フィギュアは今、4回転ジャンプの難易度を競う時代に入っている。この矛盾にイタリアのスポーツメディア『OAスポーツ』の解説者は苦言を呈している。

《ユヅルのプログラムは、チェンと比べるとかなり豊かで豪華だ。チェンも細やかな点を向上させてはいるが、実際の演技を見ると差がわかるだろう。(中略)プログラムの演技構成点は、4回転の本数に比例して加点されていくべきではない。それは演技構成点の意義を否定するものだし、技術的な難易度だけで評価してしまうことになる》

 羽生は試合後、4回転ルッツをプログラムに戻すことと、4回転アクセルやフリップにも挑戦したいと話した。これまで凄まじい執念で栄光を勝ち取ってきた羽生の闘志に、再び火がついたようだ。

※女性セブン2019年4月11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁/時事通信)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト