ライフ

『続 横道世之介』 就職に失敗、バイトとパチンコの日々描く

『続 横道世之介』を上梓した吉田修一さん(撮影/五十嵐美弥)

【著者に訊け】吉田修一さん/『続 横道世之介』/中央公論新社/1728円

【本の内容】
〈一応大学は卒業したものの、一年留年したせいでバブル最後の売り手市場にも乗り遅れ、現在バイトとパチンコでどうにか食いつないでいる二十四歳〉となった横道世之介。そんな人生のダメな時期の1年間を描き出す。パチンコ屋で知り合った女性、大学時代からの友人、一目惚れしたシングルマザー…。一向にうだつが上がらない、でもだからこそ交わり過ごした濃密な日々。誰にでもある“あの頃”がきっと愛おしくなる青春小説の傑作!

 横道世之介が帰ってきた。映画化もされ、吉田修一作品の中でも読者の人気の高いキャラクターだが、吉田さん自身は続篇を書くことになるとは思っていなかったそうだ。

「横道世之介に久しぶりに会ってみたくなった、という感覚ですね。新雑誌の連載を頼まれて、どうしよう、誰か伴走してくれないかなと思ったとき、ふっと世之介を思い出したんです」

 前作では18歳の世之介が大学に合格、上京した最初の一年が描かれた。続篇の世之介は24歳。大学を卒業したものの就職に失敗、パチンコとバイトの日々を送る。

「何をやってもうまくいかない時期ってあるじゃないですか。ぼく自身の24、25歳もまさにこんな感じだったので、スランプの一年に世之介を立たせてみようと思ったんですね」

 前作同様、小説には2つの時間が流れる。24歳の世之介の一年間に、少し先の2020年の時間がところどころ挿入されるのだ。東京ではオリンピックが開催中で、24歳の世之介と一緒にいた人たちが、いまはいない彼のことをそれぞれの場所で懐かしく思い出す。

「この構成は自分なりの発見で、ただ、一回きりしか使えないと思ってたんです。今回、少しだけ未来から回想する形で書いてみたら意外にハマりました」

 彼を懐かしむ人が「奇跡」と評した愛すべき善良さが世之介の持ち味。スランプの時期でも出会いを引き寄せて、シングルマザーの恋人ができ、彼女の子どもをかわいがる。彼の周りには、いつも笑いがあふれている。

「世の中がどんどんギスギスしている印象がありますよね。善良だけでは生きていけないのはわかるけど、善良であることをあきらめてはいけないっていうのも、書きながらずっと考えていました」

 前作も続篇も、店の名前や新しい風俗など時代の空気が絶妙に織り込まれているのも楽しい。

「高校生の頃からずっと短い日記をつけてるんですよ。どこへ行った、誰と会った、って、数行書いているだけなんですけど。資料や年表も見るけど、こまごましたことはそこには出てこないので、自分の日記を参考にします」

 30歳、40歳になった世之介にもぜひ会ってみたくなる。

◆取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2019年4月11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
阿部なつき(C)Go Nagai/Dynamic Planning‐DMM
“令和の峰不二子”こと9頭身グラドル・阿部なつき「リアル・キューティーハニー」に挑戦の心境語る 「明るくて素直でポジティブなところと、お尻が小さめなところが似てるかも」
週刊ポスト
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン