ライフ

認知症の84才女性 毎朝1時間トイレ籠城で便秘知らず

便秘知らず。認知症母の朝の儀式(写真/アフロ)

 父の急死で認知症の母(84才)を支える立場となった女性セブンのN記者(55才)が、介護の現実を紹介する。今回は「トイレ」に関する話だ。

 * * *
 母の友人の老婦人たちの間でも、便秘の悩みは深刻のようだ。そんな中、幸いなことに母はいまだに“快便”。その秘訣は、朝のトイレタイムにじっくり取り組むこと。心地よく過ごせるように、トイレのインテリアにもこだわっている。

「出てないの…苦しいわ」
「まあ~大変。冷たい牛乳飲んでみた? 効くのよ」
「あらバナナじゃないの?」

 つい先日、朝食が終わる時間を見計らって母の住むサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)の食堂を訪ねると、母と数人の老婦人たちが顔を寄せ合って話していた。

 認知症をはじめ、みなさん何かしらの衰えがあるので、食堂での賑やかなおしゃべりも、若干話がすれ違いながら進行するのが常だが、この日は妙に焦点が合っていて女子会並みに白熱していた。

「あなたはどう?」
「えっ、私? あら、どうだったかな…。忘れちゃった」

 端で聞き耳を立てる私が思わず吹き出しそうになった“認知症あるある”にも、誰も笑わず真剣な面持ちだ。

 便秘は多くの女性にとって永遠の苦悩といってもいい。特に高齢になると深刻度は増すらしい。在宅で老親を介護する友人たちから聞く話では、うつ病か認知症を心配して受診したら重度の便秘だったとか、下剤で一気に出したら血圧が急降下して卒倒したとか、大ごとにもなるという。もはやトイレの中だけの秘めたるお悩みではすまないのだ。

◆老いてなお便秘に克つ! 母の秘策はトイレ籠城

 一方、母の場合は今のところさほど深刻ではない。かといって快便体質というわけではなく、昔から“朝イチの冷たい牛乳”やお腹の“のノ字マッサージ”など、むしろ熱心に快便の策を巡らせていた。

 きんぴらごぼうを作るたびに「うんちがよく出るからね」と言う口癖は、中年になった私もつい家族に言ってしまう。

 でもいちばんの策はやはり、朝のトイレ籠城だろう。新聞や雑誌を持ち込んで、儀式のように1時間ほど籠城した。

 ちなみに私も父も、母と違い“短期決戦”タイプだったが、「便通は健康のもと」と常々唱えていた母の影響か、母の“朝の儀式”にも最大限の協力をした。父などは得意の日曜大工でトイレに本棚やめがね置きを作り、絵画や花も飾ってじっくり眺める空間を演出。すき間風も通る古い団地のトイレだったが、座ると何とも居心地がよく、母のお気に入りの空間だった。

 あれから半世紀。母はひとりになってサ高住に転居したのだが、居室内のトイレが驚くほど広い。車いす仕様のため、小さなワンルームには不釣り合いなほどスペースを取ってあるのだ。車いすを使わない母にはさらに広すぎるので、転居時、ふと団地のトイレを思い出して、本棚を置いてみた。

 私が20代半ばで実家を出てから母の“朝の儀式”のことはすっかり忘れていたが、たまたま朝食後の母を訪ねて来て、朝刊を持っていそいそトイレに入る懐かしいシーンに遭遇した。しかも長い!

「私、用事があって来たんだよ。いつまで入ってるの?」
「1時間よ! 朝、じっくり出さないとね(笑い)」

 母は認知症だが、こういう返答や笑いは昔とまったく変わらずホッとする。そして、母が出て来たトイレを覗くと、本棚の上に、たぶん道端で摘んだタンポポが。

「このトイレも結構、気に入っているんだな」と、またひと安心した。

※女性セブン2019年4月25日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

夜の街にも”台湾有事発言”の煽りが...?(時事通信フォト)
《“訪日控え”で夜の街も大ピンチ?》上野の高級チャイナパブに波及する高市発言の影響「ボトルは『山崎』、20万〜30万円の会計はざら」「お金持ち中国人は余裕があって安心」
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ドッグフードビジネスを展開していた》大谷翔平のファミリー財団に“協力するはずだった人物”…真美子さんとも仲良く観戦の過去、現在は“動向がわからない”
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
悠仁さま(2025年11月日、写真/JMPA)
《初めての離島でのご公務》悠仁さま、デフリンピック観戦で紀子さまと伊豆大島へ 「大丈夫!勝つ!」とオリエンテーリングの選手を手話で応援 
女性セブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン