不忍池を詠んだ傑作が『誹風柳多留』に多く載せられている。もう一つだけ、「弁天を連て蓮飯喰に行」。弁天とは美女のことだ。
広重の『名所江戸百景』にある湯島の坂から見た雪の池と中島の光景は忘れがたい。寛永寺という徳川家ゆかりの名刹や、加賀前田家上屋敷の裏手にありながら、高雅さや権威だけでなく、江戸っ子の庶民性も感じさせるあたりに、不忍池をめぐる文化の深い奥行きが感じられる。
著者も言うように、池とはもともと庭園の一部であり文化的なものだという説は不忍池にも当てはまる。明治天皇の御製は平成最後の4月にもふさわしいものだ。
「不忍の池の上野の桜ばなかげをうつして今やさくらむ」
※週刊ポスト2019年4月26日号