後半、対談を挟んで文我が演じた『田舎芝居』は、埋もれていた噺を彼が掘り起こしたものだ。
一昨年から豊年祭りで素人芝居を始めた村。初年の失敗に懲りて去年は江戸から役者を呼び『四谷怪談』をやった。今年は上方から役者を呼んで『忠臣蔵』を大序から六段目まで。ところが四段目で腹切り場を作る諸士が出てこない。諸士役4人は五段目の猪役の男と酒盛りの真っ最中。
急遽諸士の代役を頼まれた男が「諸士」を「猪」と聞き違えて乱入し、判官を追いかけ回した。面白いと大喜びする観客の中で、一人が大いに感心して「赤穂の猪(志士)は義理堅い、殿様に暇乞いに来た」と呟いてサゲ。村人たちのトボケた会話が実に可笑しい爆笑編だ。
最後は梅團治が桂米朝の名演でお馴染み『はてなの茶碗』をダイナミックに演じた。押しの強い油屋のキャラが梅團治にピッタリだ。対照的な個性の達者な演者2人による上方落語を満喫できる贅沢な会だった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年4月26日号