「最近、例えば流通格差やフードロスをなくす等、いわゆる社会貢献といわれる活動をする20代との対談の依頼が増えました。自己実現よりも他者貢献が先にある同世代を素直にすごいと思う一方で、自己実現のみを追い続けている自分を責めてしまったりもする。死にがい、という言葉は、自分のような人間が、社会的価値を求めるあまり他者貢献に走る際、臭う何かに当てはめた言葉です」

 対立や比較の構図の中に自分の立ち位置や目標を見いださずにはいられない雄介は、大学卒業を前に自衛隊に入ると言ったかと思うと、今度は〈海山伝説〉に心酔し、伝説発祥の地〈鬼仙島〉の探索員となるべく、姿を消してしまうのだ。

「『黒子のバスケ』事件の犯人が語った無敵の人という言葉が忘れられない。失うものが何もない無敵の人による凶行を抑止する方法について考えながら、わけあって病床にある智也の最終章を書いていました。もう出ない歯磨き粉のチューブをあと1回分絞り出すように、何度も書き直し、その結果〈降りられない〉という言葉が出てきました。

〈摩擦〉がないと体温が感じられないのは雄介に限らないし、目的なく生きたり、自分が幸せになることへの罪悪感や圧が、今は凄く強まってる気がします。〈もっと人を救わないと〉と言いながら自分は疲弊していく人物が出てきますが、社会的価値が足りないと感じる自分を滅しようとする感覚を、他者や社会への恨みに転じさせないためにはどんな言葉が有効なのか。未だに答えを探し続けている感覚がありますが、平成を舞台に書いた小説がこの温度に落ち着いたことには、不思議と納得感があります」

 人生は降りられないから生きる。理由はそれで十分だと、智也の思いが読者の中にもいる雄介に届くよう、奇しくも新元号発表の月に、朝井氏は静かに祈るのだった。

【プロフィール】あさい・りょう/1989年岐阜県生まれ。早稲田大学文化構想学部在学中の2009年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年『何者』で直木賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞。他に『武道館』『何様』等話題作多数。ハロプロファンとしても知られ、「新元号に違和感を持った後に慣れる、という過程を楽しみにしていたのですが、“BEYOOOOONDS”や“雨ノ森 川海”などのハロプロのユニット名で耐性がついたのか、“令和”じゃ違和感すらない(笑い)」。172cm、70kg、A型。

構成■橋本紀子 撮影■国府田利光

※週刊ポスト2019年5月3・10日号

死にがいを求めて生きているの

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