「パンダは昔から人間の言葉が喋れるけれども隠している」という設定で、命の恩人のため、パンダは両国の見世物小屋に身を売るが、50両を手に入れた魚屋は酒浸りに。小屋を抜け出してきたパンダは女房に「お金を隠して夢だったと言って、3年後の大晦日に本当のことを話してください」と助言する。
「小咄をする小熊猫」として人気が出たパンダは細川屋敷に呼び出され、『妾馬』のごとく殿様に「ササは食べるか(酒は飲むか)?」と訊かれると、勘違いして左甚五郎作の「竹の水仙」を食べてしまう。手討ちだと家来に追われて井戸に落ち、現代の排水溝で目を覚ましたパンダが飼育員に『芝浜』の内容を訊くと、「浜でパンダを拾った噺」だという。タイムスリップは現実だと知り、江戸での体験を語ったところ「その噺を寄席でやれ」と勧められ、「パンダ笹之丞」として人気者に……。
演目表に『芝のたらい(仮)』と書かれていたこの噺、絶対に売り物になる。寄席のトリで演ってほしい。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2019年5月17・24日号