有事と平時では、パイロットたちのリスクに対する感覚が違うのだろうか?
「軍の輸送機のパイロットがいい例だ。彼らはちょっとでも天候が悪かったり、崩れそうだとわかると飛ばない。有事ではないからね。平時にリスクは取らないのさ。確実に飛ぶ保証はない。移動する時は、それを忘れてはいけないんだ」
日本国内にある基地へ行く時や米国へ帰る時、元大佐は希望すれば基地から基地へ軍の輸送機で移動することができるという。予約システムはないが、搭乗希望の登録をしておくことはでき、席が空いている限り乗れるらしい。
「平時の話だがね。退役軍人でも席があれば乗れるよ。元大佐だからといって、搭乗する時に地位が優先されることはない。軍からの命令書によって動く者が優先される。空いていれば俺たちみたいのが乗れるのさ。料金は無料。長距離の場合は、袋に入ったサンドイッチとミルクが軽食として渡される。その料金が7ドルか8ドルだ」
アメリカ本土まで飛んでもかかる料金は7ドルか8ドルというと、その安さに驚く。
「席は映画に出てくる輸送機と同じ。両側に横並びさ。1階にトイレはなくて、乗れるのは男のみ。輸送機の奥にカーテンがあり、そこに缶が置いてある。それが簡易トイレさ。俺たちにはそれが普通。慣れたもんだよ」
トイレが空き缶なら、軍にいる女性はどうするのか。
「2階に30席ほどエコノミーと同じか、ちょっといいくらいの座席がある。女性や子供はそこだよ。軍人は転勤があるから、引っ越しのためにその家族や子供が乗ることもあるね」
「本当に飛行機が飛ぶかどうかは、その時にならないとわからない。飛ぶという保証はないから、アポがある時には使えない。民間の旅客機なら普通に飛ぶような天候でも、輸送機のパイロットは飛ばないからね。客を乗せている民間旅客機のパイロットのほうが、よほどリスクを取っているよ」
「俺たちみたいのは、乗れればラッキーなのさ」
元大佐は両手を広げて、肩をすくめて笑った。