国内

小林よしのり氏が「明治ブーム」に異議 日本が失ったものは

「西洋覇道の論理」を唱えた大久保利通(左)と、「東洋王道の道義」を説いた西郷隆盛(時事通信フォト)

「令和」が始まった。元号で時代を認識する日本人は少なくない。昨年は「明治維新150年」でさまざまなイベントが企画され、今も“明治ブーム”は続いている。そんななか、漫画家の小林よしのり氏は「明治礼讃史観」に異を唱える。

 * * *
「明治維新150年」などと言われ、特に保守を自称する者には明治を礼讃する者が多いが、わしは明治礼讃史観を支持しない。彼らが明治を礼讃するのは、単にそれが「勝った」歴史だからだ。日清戦争に勝利し、世界の一等国の仲間入りを果たした誇らしい歴史、ということなのだろう。

 だが、明治維新を成し遂げた西郷隆盛の思想は、東洋の諸国が連携して、アジアの植民地化を狙う西欧列強に対抗しようというものだった。それを大久保利通らは無視し、西郷を下野させ、朝鮮に砲艦外交を仕掛けた。西欧列強のマネをして、威圧外交を展開したのだ。

 不幸にして、その後、日本と清が戦火を交えることとなったが、その戦争の目的はあくまでも近代化に背を向ける清を覚醒させ、朝鮮を独立させることにあったのだから、戦争が終結した後は、賠償請求などは極力抑えて共に手を携えねばならなかった。

「大アジア主義」を貫いた荒尾精(小林よしのり『大東亜論最終章』より)

 しかし、幕末から30年近くを経た日清戦争当時には、日本から西郷の精神は失われてしまっていた。日本が連戦連勝すると、世論は清から賠償を取れるだけ搾り取れという意見が圧倒的になったのである。日本はここから決定的に道を踏み外したのだ。

 わしが描いた『大東亜論最終章』は、最後の武士たちが、西郷隆盛の東洋王道の道義を復活させようと戦い、そして敗れ去っていく物語である。この物語を描くことで、近代化の中で日本人が失ったもの、取り返さねばならないものとは何かを明らかにしたかった。

 大久保利通が唱えた西洋覇道の論理、弱肉強食で勝った者がすべてだという、道義もへったくれもない日本人ばかりになってしまい、その状況は今なお続いているからだ。

【プロフィール】こばやし・よしのり/1953年福岡県生まれ。漫画家。最新作に『ゴーマニズム宣言SPECIAL 大東亜論最終章 朝鮮半島動乱す!』がある。

関連キーワード

関連記事

トピックス

夜の街にも”台湾有事発言”の煽りが...?(時事通信フォト)
《“訪日控え”で夜の街も大ピンチ?》上野の高級チャイナパブに波及する高市発言の影響「ボトルは『山崎』、20万〜30万円の会計はざら」「お金持ち中国人は余裕があって安心」
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ドッグフードビジネスを展開していた》大谷翔平のファミリー財団に“協力するはずだった人物”…真美子さんとも仲良く観戦の過去、現在は“動向がわからない”
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
悠仁さま(2025年11月日、写真/JMPA)
《初めての離島でのご公務》悠仁さま、デフリンピック観戦で紀子さまと伊豆大島へ 「大丈夫!勝つ!」とオリエンテーリングの選手を手話で応援 
女性セブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト)
《日中外交で露呈》安倍元首相にあって高市首相になかったもの…親中派不在で盛り上がる自民党内「支持率はもっと上がる」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(現場写真/読者提供)
【“分厚い黒ジャケット男” の映像入手】「AED持ってきて!」2人死亡・足立暴走男が犯行直前に見せた“奇妙な”行動
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
「現地の中国人たちは冷めて見ている人がほとんど」日中関係に緊張高まるも…日本人駐在員が明かしたリアルな反応
NEWSポストセブン
10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン