国際情報

韓国の徴用工「日本に行きたくて行った」証言

 別の例を見てみよう。朝鮮人徴用労働者の「通訳」として日本に渡った朝鮮人の証言を見ると、自分は日本語ができたので通訳として行ったから苦労はしなかったし、戦争が終わったときには残念だという思いがあったという。

〈住友炭鉱は、まだ待遇がよかった。三菱の山(炭鉱)は、きついと噂されていた。

「住友炭鉱で日曜日になると、同胞が故郷に送る手紙の代筆をして忙しかったよ。だいたい、わしは日本に来てから苦労してない。言葉を知っとるけん。言葉を知らん人は、みんな苦労しとった」(中略)

 住友炭鉱で働きだして五年経ったころ、日本が戦争に負けた。

「戦争が早く終わったんで、本当は悔しかった。住友が大事にしてくれたから」

 五百人の朝鮮人坑夫のほとんどが故郷へと帰っていったが、彼は日本に残った。

 ──李基淳(1919年生)〉(『在日一世』李朋彦 リトルモア 2005年)

 この証言者は、学校の教師の月給が45円だった時代、通訳として日本へ行けば70円貰えたために日本行きを決心したという。彼は日本で裕福な老年を送っている人だが、もし彼が韓国内にいたら、果たして「戦争が早く終わって本当に悔しかった」というような証言ができただろうか。

◆戦時中の朝鮮人労働者は「同情」の対象なのか

 ここでは、戦時中に日本へ渡り仕事をしていた朝鮮人労働者たちに対して、あまり知られていない姿をいくつか紹介した。しかし、驚いた人もいるに違いない。なぜなら、日韓両国で「常識」になっている姿とはあまりにもかけ離れた話だからだ。

 日韓両国の教育とメディアが伝える朝鮮人労働者の姿は飢えと重労働に苦しむ奴隷そのものだ。しかし、朝鮮人労働者の中には大金を貯めて帰国した人もいたし、無一文で渡日し工場労働者を経て会社を設立し社長の座まで上り詰めた成功者も、日本での生活に満足して日本に残った人もいた。ただ、残念なことにこのような話は過去の記録と、ほとんど知られていない個人史の記録でしか出会うことができない。

 このような偏った記憶は、常に「被害性」を強調しながら歴史を語る韓国側にも責任があるが、朝鮮人労働者を常に「弱者」そして「同情の対象」としてしか語らない日本のメディア、研究者たちにも一部の責任はあると思う。

関連キーワード

関連記事

トピックス

俳優の水上恒司が真剣交際していることがわかった
水上恒司(26)『中学聖日記』から7年…マギー似美女と“庶民派スーパーデート” 取材に「はい、お付き合いしてます」とコメント
NEWSポストセブン
ラオスに滞在中の天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《ラオスの民族衣装も》愛子さま、動きやすいパンツスタイルでご視察 現地に寄り添うお気持ちあふれるコーデ
NEWSポストセブン
AIの技術で遭遇リスクを可視化する「クマ遭遇AI予測マップ」
AIを活用し遭遇リスクを可視化した「クマ遭遇AI予測マップ」から見えてくるもの 遭遇確率が高いのは「山と川に挟まれた住宅周辺」、“過疎化”も重要なキーワードに
週刊ポスト
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト